イナズマ ケンキュウジョ

色々な場所へ投下したSSのリファインしたもの。 現在は「涼宮ハルヒの憂鬱」がメイン。

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朝倉涼子の誕生

>今後はぜひブログオリジナルの(朝倉)SSもお願いします。
という意見を元に「だったら『感情』の対として『誕生』かな」と軽い気持ちで書き始めたところ、タイトルに反してなぜか長門モノになってしまったという短編。ダメじゃん。
そんな訳で朝倉涼子の誕生日は7月7日と勝手に設定。

ハルヒの「わたしはここにいる」で呼ばれたのは朝倉さんだったんだよ!
ΩΩΩ「な、何だってーっ!?」



朝倉涼子の誕生

- * -
 彼と朝比奈みくるを時間固定し、エマージェンシーモードを発動させたのは少し前の事。
 そしてつい先ほど、別の時間の彼を時空改変ポイントへと見送りだした。
 一日に二度来客のあったこの部屋は、今はただ沈黙だけが降りている。

「……」
 彼の眠る部屋を見つめつつ、わたしは上に対して一つの申請を行った。

「エマージェンシーモード発動につき、行動範囲の制限が課されている。
 涼宮ハルヒがエマージェンシーポイントから一定空間外に移動した場合、わたしには追跡不能となる。
 現状において涼宮ハルヒの監察は困難。よってわたしをバックアップサポートする為の存在を申請する」


 数秒後、インターホンからチャイムが鳴る。
『あなたの申請は受理されたわ』
「そう」
『……ねぇ、入れてくれないの?』
「なぜわたしに尋ねる」
『だってあなたがわたしのマスターになるんでしょ。だったらあなたに判断を委ねないとね』
「……入って」
 マンションの自動ドアを開く。インターホンを切る直前、向こうから『ありがと』と言う声が届けられた。

- * -
 バックアップとして訪れた少女は、他のインターフェース同様に人当たりの良い爽やかな笑顔を浮かべていた。
 やはり万人受けするようにか、今の人間の基準で好感を持たれる顔とスタイルをしている。
 着ているものはわたしと同じ制服。彼女もまた観察対象と同じ学校へ通うのだろう。
 わたしが先ほど彼から聞き、そして同期した際垣間見た、あの未来の通りに。

「対象の監察を公平に行う為、急進派からサポートをまわす事になったの。よろしくね」
 非の打ち所の無い挨拶とともに差し出された手をわたしは無視し、部屋の中へと招き入れる。
「……つれないわね。そんなんじゃ人間とうまくやっていけないんじゃない?」
 彼女は行き場の無い手をそっと引っ込めると、わたしに続いて部屋に上がってきた。

「ねえ、どうしてあなたはそんな風に設定されているのかしら?」
 どうにも彼女は質問したがる傾向があるようだ。回答の必要がないと判断し無視する。
 彼女も特に気にしていないのか、わたしの答えを待つ事無く話を続けてくる。
「それにしても見事に何も無い部屋ね。こういうのが『人生の遊びを全て排除した』って感じなのかしら」
 わたしは隣の部屋へのふすまの前に立つと後ろを振り返る。
 彼女はそれを待っていたかのようにわたしに視線をぶつけると

「──まるであなたみたいね。うん、あなたにちょっと興味がでてきたかな」

 そう言って両手を後ろに組むような形にまわすと優しく微笑んできた。


 一瞬後、彼女は一気に至近距離まで詰め寄り、閃く何かを握った右手をわたし目掛けて突き出してくる。
 わたしは左手を開いて彼女の手にした閃くモノ──軍事用のごついナイフを受け止める。
 ナイフはあっさりと手のひらを貫き、刃の根元まで刺さったところでようやく勢いが止まった。
 そのまま指を閉じ突き刺さったナイフをがっちり固定すると、今度はわたしが右手を手刀の形に取って彼女の首を斬りおとそうと打ち返す。
 しかし首に当たる前に彼女に手首を捕まれ、その勢いを殺されてしまった。

「エマージェンシーモードの方へ大幅に処理を持っていかれてるはずなのに、それでわたしと互角なんだ。あなたってよっぽどハイスペックなのね」
 彼女は心底感心したかのように話してくる。そのままナイフを押す力を抜き、わたしを掴んでいた手も離した。
 わたしも手を引き、握っていた手を開く。彼女はナイフを引き抜くと構築情報を解除し情報の塵へと戻した。

「それともあなたがその性格なのはこの為なの?」
「……?」
「だから、エマージェンシーモード実行中でも問題なく行動できるように、あなたには感情の起伏っていう一切の遊び、余計な処理が排除されているのかなって」
 そう言いながら彼女が穴の開いたわたしの手を取ると、そっと自分の手を重ねて傷に力を注いで傷を修復し始めた。

「わたしには別時間体との同期能力が備わっていないの。だからこそ本当に気になるのよ。
 わたしはあなたに付いていかなければならなくて、つまりあなた次第でわたしの運命も決まるって事でしょ。
 ねえ……主流派は未来に何を見据えてあなたをそんな風に組み上げたの? やっぱりエマージェンシーモードの為?」

 彼女が重ねていた手を外す。綺麗に修復された手を一瞬見つめると、わたしは興味無げに手を引っ込めた。
 だが彼女の次の言葉は、わたしが興味を示さないわけにはいかなかった。


「それとも……全部逆だったりして。あなたをあえてその性格にする為にエマージェンシーモードが認可された、とかね」


 わたしをこの性格にする為……その為に、この性格が必要となるエマージェンシーモードを認可した……?

 わたしには答えられない。
 エマージェンシーモードを解除した後から、エラーが今まで以上に蓄積されていったのは知っている。
 それはエマージェンシーモードの継続に利用していた処理能力を、全て彼らとの接触に回すようになった為。
 もしそうだとすると、一体どこまでが上の既定事項なのだろうか。
 まさか彼女が起こす造反劇までもが、わたしの為のものだというのか。
 わたしが受け入れられるよう彼女が動き、その後エマージェンシーモードが解除、わたしはその能力の全てを以って彼らと向かいあい……。


 もしこれらが全て仕組まれた事だとして、わたしがわたしである答えを、いずれわたしは知るのだろうか。
 それとも答えなど手に入れる事も無く、わたしもいずれ処分されてしまうのだろうか。

 彼女は知らない。彼女自身の未来を。
 わたしも知らない。わたし自身の結末を。

- * -
「さて。そろそろ教えて欲しい事と決めて欲しい事があるんだけど」
 わたしは首を傾け、彼女の疑問について尋ねる。

「教えて欲しいのはあなたの名前。そして決めて欲しいのはわたしの名前よ」
「わたしは長門有希。そしてあなたは──」
 わたしは当然彼女の名前を知っている。だがわたしは、それでも彼女のために考えて決める事にした。
 もしかしたら、本当にわたしの為だけに歩き続ける使命を授かったのかもしれない、彼女の為に。


 朝日のように、眩むほど輝く存在。
「──アサクラ」

 それは、観察対象の彼女に良く似た輝き。
「──リョウコ」

 わたしはそんな想いを込めて、わたしに無いモノを持つ彼女に贈った。
 わたしなりに考えた、既定事項となっている彼女の名前を。


「アサクラ、リョウコ?」
「そう。朝倉涼子、それがあなたの名前」
 彼女は何度か自分の名前を呟く。そして静かに頷くと
「うん、わかった。じゃ、何かして欲しい事があったら遠慮なく言ってきてね、長門さん」
人間を真似た単なる児戯なのかもしれないが、彼女──朝倉涼子は優しさを込めた微笑を返してきた。



 彼女はいずれ知るだろう。
 朝日が、いつかは沈むという事を。


 わたしもいずれ知るのだろうか。
 雪が、いつかは融けるという事を。

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