イナズマ ケンキュウジョ

色々な場所へ投下したSSのリファインしたもの。 現在は「涼宮ハルヒの憂鬱」がメイン。

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脱衣オセロ

初のハルヒ長編SS。ある意味自分の色が一番出ている話。
何故か二人で遊園地デートするという続編も考えてたが、今の所書く予定無し。



『脱衣オセロ』


 春の到来を感じさせながらも、未だに寒い寒いと思いストーブへの恋しさが忘れられない冬の終わり。相変わらず文芸部を不法占有しているSOS団の本日の活動方針は羽伸ばしだった。
 歯に衣被せず言うなら、いつもどおりのグタグタ状態である。
 ハルヒはネットサーフィンに飽きたのか猫とおにぎりを掛け合わせた全く新しい生命体を落書きし、長門は一体どんなブームが到来したのか小学生用の教本「優しい理科」を先ほどから読みふけり、朝比奈さんは先ほどハルヒに印刷してもらった何処かのサイトの美味しいお茶の淹れ方を実践している。
 そして、俺は古泉が棚から今日は何を持ち出してくるのかをのんびりと眺めていた。
 どうでもいいが、谷口レビューにおいて見た目的にはAランクの女生徒が三人もここにいるというのに、どうして俺は年中微笑顔と面をつき合わせて勝負事なんてしてるんだろうね。

「何か賭けますか」
 オセロを選び出してきた古泉が、相変わらず人当たりの良い笑顔を浮かべつつ聞いてきた。
「悪いが金欠だ。何故か毎週毎週五人分の交際費が俺の財布から飛び立っていくんでな」
 全く持って謎だ。おいハルヒ、お前の好きな謎が転がってきたぞ。
「アンタがいつも集合に遅れるからでしょ。文句があるなら一番に来ればいいのよ」
 断言しよう。
 たとえ明日駅前集合と今この場で決定しそのまま解散したとする。
 俺が家に帰らずそのま駅前に向かったとして、それでも俺は一番最後になるのではないかと考えている。
 一体誰の陰謀だろうね、これは。

 そう言いながら軽く指先をほぐして暖める。
「おや、寒いのですか?」
「日が陰ると手先がちょっとな」
 だがストーブ一基にこの部屋全体の温暖化は流石に求めすぎだと思う。

「面白い事を思いつきました」
 こいつの思いつく内容はハルヒの次に問題があるという事をそろそろ自覚してもらいたいものだな。
「負けたら着ている物を一枚脱ぐ、というのはどうです? 文字通り敗者は身包み剥がされていくという訳です」
 聞けよ人の話。さっきから寒いって言ってるのがわからないのか。
 あまりの古泉の提案に、俺の脳内情報統合思念体がサミットを開催する。

(わかってるわよねキョン! これはギャフンと言わせる決定的なチャンスなのよ! いつもスマイルポーカーフェイスな古泉くんの身包みを徹底的に剥ぎ取って、その顔に焦りと驚愕を浮かべさせるのよ!)
(イェッサー!)
 サミットだったはずがなぜか悪の幹部らしき連中の会話に変化していた。
 しかも悪のリーダーがハルヒだし。

「いいのか古泉。まさか俺に勝てるとでも思ってるのか?」
「勝負は常に時の運です。気まぐれな勝利の女神が微笑む者に、栄光はもたらされるのですよ」
「言ってろ。すぐに後悔させてやる」

 こうして俺と古泉の熱き脱衣オセロ勝負が開始された……のだがその前に。
 俺も思春期を生きる健全な男子である証拠として一言だけ言わせてくれ。

 谷口レビューにおいて見た目的にはAランクの女生徒が三人もここにいるというのに、どうして俺は年中微笑顔と面をつき合わせて脱衣勝負事なんてしてるんだろうね。


- * -
 さて。あまりに不本意で言いたくないのだが、言わなきゃ始まりそうもないので結果を言おう。

「……てめぇ、やっぱり今までの腕はブラフだったって事か」
 ランニングを脱ぎ捨てついに上半身裸になる。下半身はズボンは無傷だが靴下は無し。
 そんな俺の状態とは対照的に、古泉はゲーム開始から何一つ姿が変化していない。
 盤面はといえば、俺の大敗をあざ笑うかのごとくほぼ古泉カラーで埋め尽くされていた。
 つまり、連戦連敗街道まっしぐらって事だ。応援してくれてる地元ファンのみんな、すまん。

「いえいえ、これは偶然です。どうやら今日の僕は運が良いみたいですね」
 そこまで言うとこちらに何やらアイコンタクトを飛ばしつつ、
「まさに勝利の女神が僕の勝利を望んだ結果、とでも言いましょうか」

 なるほど。勝利の女神が望んだ結果か。
 つまりあれだな、お前の言う勝利の女神って奴は
「ぎゃはははははっ! 何、キョン! 時期外れのストリーキングでも始めるつもりなの!」
とさっきから俺たちの対戦を見てげらげら笑ってるこいつの事だな?
 ったく何で古泉の勝利なんて願ってやがるんだ! くそいまいましい女神め!

「違う」
 珍しく俺たちのゲームに近づいてきた長門が短く答える。
 何度も言うようだが気配もなくいきなり背後から声をかけるのは心臓に悪いから止めてくれ。
 それで何が違うんだ?
「勝利の女神は古泉一樹の勝利を望んではいない」
 そう言いながら机を回り、古泉のそばへと歩いていく。
 どうした長門。古泉が不正でもしていたのを見つけたのか?
 しかし長門は古泉に何やら目配せをするのみ。手を掴んでズルを発表したりはしなかった。

「流石に緊張続きで少々疲れました」
 古泉は盤面を初期位置に戻し終えるとそっと立ち上がる。そしていたずらを謝るかのような表情を浮かべて目配せをしてきた。
 やれやれ、ようやくこの屈辱も終わるかと思っていると。

「勝利の女神が望んでいるのは、あなたの敗北」

 開いた対戦席に長門がゆっくりと移動した。
 そして俺の前に着席し、ただじっと俺のことを見つめてくる。
 おい待て。まさか冗談だよな、長門?

 そんな俺の言葉も空しく、長門はオセロの駒を摘むと盤面に指した。
 って長門、もしかして俺の事を脱がすつもり満々なのか?

「わたしという個体もあなたには脱いでほしいと感じている」

 ぽつりと言葉を続け、ようやく長門は俺から目線を外した。
 何というか少し照れているような、そんな表情をミクロン単位で浮かべながら。
 ブルータス、お前もか。


- * -
 何の能力もない一般人が長門に対して頭脳戦で勝てる確率など、谷口がハーレムを築き上げる可能性よりも低い事は誰の目にも明らかであり、俺はおそらく朝比奈さんが言うところの規定事項どおりの状態、つまりは盤面が一色で埋め尽くされたオセロ盤に対してありったけの怨念を送信している所だった。

 ムエタイ選手よろしくトランクス一丁の姿で。

「いいわよ有希! あと一枚よ!」
 何処から出したのかデジカメでパシャパシャ写真を取り捲るハルヒ。
 気づけばハルヒの腕章が団長から「ヌード写真家」に変わっていやがる。なんて縁起でもねぇ。
「勝てば終わりよ! やっちゃいなさい、有希!」

「終わり?」
 長門がちょこっと首をかしげて聞いてくる。
 ああどう見たって終わりだろ。
 次負けたら俺の理性と尊厳が脱がされちまうからな。
「そう」
 ……ん? さっきまでやる気満々だった長門のシルバーメタリックの瞳が、気づけばつや消しブラックにまで変化している。
 どうした長門。何かあったのか。
「ない」
 それだけ告げると、長門は準備完了したオセロ盤に駒を指した。


- * -
 悪い夢を見ているのだろうか。
 それともパンツ一丁で肌寒い部室にいたために、いつの間にやら燃え尽きる寸前のろうそく状態となってしまっていたのだろうか。
 唖然とする俺やギャラリーたちの目の前で、長門はセーラーを着たまま器用に手を動かし、襟元から青と紺で色別けられたスポーツブラをするっと取り出した。
 別に猫型ロボットの真似事をしている訳ではない。
 つまりこれは、あれだ。ある意味において緊急事態だった。

 目の前の長門は間違い探し状態になっている。さて何が違うだろうか。
 その解答は長門の座席の横をみれば一目瞭然。
 今さっきブラが置かれた下にはカーディガン、靴下、リボンが置かれていた。

「くっ……しぶといわねぇ。女の子のブラを脱がせてまで狡く生き延びるなんて、キョン、男として最低だと思わないわけ!?」
 そう、俺の格好はは先ほどから変わっていない。パンツ一丁のリーチ状態のままだ。
 つまり最初の敗北以降、俺は長門に四連勝を決めた事になる。
 ……ありえねーだろ、これ。やっぱり寒さで夢でも見てるんだろうか。

「思考が読めない」
 長門が盤面を片付けながらぽつりとこぼす。
「あなたの打つ手は必ずしもベストではない。むしろわざと不安定にしている節がある」
「確かにトリッキーな打ち方ですね。先ほどなんて角をわざと放棄しましたし。どうしてです?」
 もちろんわざと盤面をかき混ぜる為だ。
 背水の陣なゲリラ戦でも仕掛けない限り、イカダで不沈戦艦なんかに勝てる訳がない。
「不安定な手はノイズを生む。それゆえ常に終盤まで流れが確定できなかった」
「なるほど。今後の参考にさせてもらいます」
 古泉は腕を組んで頷くと、さて、と接続詞を用いてから
「これ以上長門さんが負けた場合、どうにも倫理的に問題があるかと思います」
「問題ない」
 いやあるだろ。
「ない。まだ着衣は三つある」
 セーラーにスカートに下着だな。問題ありまくりだ。
「ない」
 相変わらずの微妙な変化だが、なぜか少し寂しそうな表情を浮かべて長門が珍しく食らい付く。
 ……もしかしてコイツ、純粋に遊びたがってるだけなのか?
 だから俺に負けて……。そんな事を思い描いていると
「ですが長門さん。彼と遊びたいと思っている人はあなたの他にもいるようですよ」
 やはり似たような意見を出して古泉が脇の人物へと視線を投げた。
 長門もあわせて視線を送ると、そこにはヌード写真家から「永世名人」に変化した永世名人が机に座っていた。なんだか色々と間違っているが放っておこう。
 長門は実に瞬き三回分の時間をとる。そして
「わかった」
 それだけ言ってようやく席を空けると俺の斜め後ろ辺りの位置に椅子を持ち出し、まるで日常を再開させるかのごとく本を開いて視線を落とした。


- * -
 さて諸君、色んな意味において本日のメインイベントだ。
 長門という難攻不落の砦が落ちた事で、ついに悪の親玉が動き始めるらしい。
「ぬっふっふっ……。どうやらあんたと決着をつける時がきたようね、キョン」
 パソコン前から机の上に移動していた赤コーナー選手は、わざとらしい笑いと共にゆらりと机の上に立ち上がった。

「っと朝比奈さん。すいませんがお茶をもらえますか。流石に寒くて」
「え、あ、はい、ただいま!」
 俺のこのあられもない姿に朝比奈さんは顔を真っ赤にしながらも、健気に返事をしてくれた。
「こらあっ無視すんなっ! アンタも少しは場を盛り上げなさいよ!」
 ぱたぱたと歩く朝比奈さんから視線を戻せば、仁王立ちでこちらに指を差し向けたハルヒが百ワットの笑みに悪玉菌と熱血成分をふんだんに盛り込んだような表情を浮かべていた。
 どうでもいいがパンツ見えるぞ、おまえ。

「そんな安い動揺には乗らないわよ。あたしのパンツが見たいのならとことん勝負に勝つ事ね! まぁどう考えてもキョンの方が先にSOS団活動ページに醜態をさらす事になるでしょうけどね」
 ちょっと待て! 俺のこの姿を載せるつもりか!?
「あったりまえよ! みくるちゃんは問題あるけどアンタなら別にかまわないでしょ」
 持てる限りの権限を全て発動させてでも構わせてもらう。んなことさせるか。
 クソッ、こうなったら意地でも負けられねぇ。いいぜ。OK。やってやろうじゃねぇか。
 クリパのツイスター以来か? 久しぶりにお前とイカサマなしの真剣勝負をしてやろうじゃねぇか。

「こうなったら下克上だ。後でカーディガンにコートにマフラーを付けてから勝負すればよかったと涙を流して後悔しやがれ、ハルヒ!」
「吠える部下に厳しい教育を施すのも天下人の使命! アンタの下克上なんか軽く蹴散らしてあげるわよ! 覚悟しなさいっ!」

「はい、キョンくん。お茶です」
「あ、すいません朝比奈さん。こんな格好で」
「い、いえ、わたしの方こそ、いろいろ見せていただいちゃって」
 はっはっはっ。それならおあいこですね。

「だからあたしを無視するなーッ!」


- * -
 古泉のゲームの弱さはある意味病的に近いが、だからといって俺に実力が無いわけではない。
 少なくともオセロに関してはそこそこ自信がある。
 中学時代、真に永世名人級の実力を持っていた風変わりな知人と鍛錬しまくった結果だ。
 如何に完璧超ハルヒといえど、ことオセロに関しては俺にかなう訳が無い。
 正直俺はそう思っており、だからと言って手を抜くような事もせず、ここらで一度ハルヒにギャフンと言わせるぐらい徹底的に勝負してやろうと考えていた。


 第一回戦、十枚差で俺の勝ち。ハルヒ、制服のリボンを外す。
 第二回戦、八枚差で俺の勝ち。ハルヒ、靴下をセットで脱ぎ捨てる。

「それとも靴下だけ残すって方がキョンの好みだったかしら?」
 そんな属性は無い。今のところ。


 第三回戦、六枚差で俺の勝ち。ハルヒ、永世名人を引退する。

「キョンにしてはやるじゃないの。こうなったら呪われし封印を解かせてもらうわ」
 そういっておもむろにカチューシャを外した。良く見ると内側に封印と書かれている。
 って言うかそのカチューシャにはそんな意味がわからん設定があったのか。
 全く何処の芸人だお前は。


 第四回戦、四枚差で俺の勝ち。ハルヒ、おもむろにセーラーを脱ぎ捨てTシャツ姿になる。

「キョンくんってオセロ強いんですねぇ。ちょっと意外です」
 朝比奈さん。あなたの中で俺はバカ属性でも付いているんでしょうか。


 第五回戦、二枚差で俺の勝ち。ハルヒ、おもむろにTシャツを脱ぎ捨て、スポーティブラ姿になる。

「す、涼宮さぁん! そのその姿は流石にマズイと思いますよっ」
 あまりに見事な脱ぎっぷりに一瞬誰もが反応できなかったが、状況を理解した朝比奈さんが慌てて両手をばたつかせながらハルヒに駆け寄る。
 古泉も顔を軽く背けハルヒの姿が視界に入らないようにしている。
 その状態で俺に投げる視線はまるで「わかってます。僕は見ませんよ」と言ってるかのようだ。
 しかし当の本人は全く持って気にしてないらしく
「いいのよ! 色仕掛けも作戦のうちなんだから!
 この程度の姿でおろおろしてたら水着やタンクトップ姿になれないわよ」
 そう言いながら軽く胸を前に出して強調し、左手をスタイルのいい腰にあて右手で髪をかきあげる。
 ライトグリーンカラーにワンポイントマークの入ったブラが軽く上下に揺れ動く。
「ほれほれ、どうよキョン? そそるでしょ、釘付けでしょう?
 でもその一瞬のスキが命取りなのよ。さ、次の勝負を始めるわよ!」
 腕を組み勝ち誇ったような笑顔で笑い出す。
 お前のその姿に多少なりとも心と身体が反応しているのは、健全たる男の悲しい性として認めよう。
 だがその分を劇甘採点で差し引いたとしても、色々と何かが台無しであると思うんだがその辺りどうかね。


 そして第六回戦、同点。ドローゲーム。

 さてここで問題だ。俺は勝っているのだろうか。それとも追い詰められた獲物なのだろうか。
 信じたくは無いが、ハルヒの奴は一試合ごとにとんでもなく成長している。
 俺の置き方から思考を読み取り最善策を学習しているとしか思えん。
 いったいこいつのスペックは何処までハイエンドなんだ。

 ちなみに五回戦終了後、古泉は長門の時と同じようにハルヒを止めようとしたが
「何言ってるの! 今、場の流れはこちらにあるわ。
 そう、今まで撒いてきた逆転のタネが今こそ芽吹く時なのよ!」
 という事であっさり却下。
 ハルヒが脱いで以降古泉は視線に困っていたが、結局盤面だけを見ながら微笑む事に決めたらしい。
 確認のために古泉に視線を送るが、奴は小さく首を振り否定する。
 古泉の時の様な無意識的なズルは今のところしていないようだ。なんてこった。

 やれやれと口にはするが、地道に差が縮まる戦歴は俺の背筋に冷たい何かを這わせていた。
 もしこの流れを見て嫌な予感がしないというのなら、その人は一生ギャンブルに手を出さない事をお勧めする。

「何か盛り上がりにかけるわねぇ。もっとテンションあがんないとやる気がでないじゃないのよ!」
 いや十分すぎるぐらい盛り上がってるだろ。
 俺なんかお前と勝負し始めてから部屋が地道に暖かく感じるぐらいだぞ。
 見ろ、この火照り具合と汗の量。冷や汗もかなり混じっているけどな。
 それと今までの状態でやる気が出てなかったのか。
 だったらさっきの封印解除はなんだったんだ一体。


「あっ、そうだ! 良い事思いついた!」
 思いつくな。どう考えてもお前にとって良い事は俺への不幸宣告でしかないからな。
「何言ってるの。上手くいけばみくるちゃんの好感度アップ間違いなしのイベントよ!」
 ほほう、良く思いついたな。ではそのお前が思いついたという悪い情報を告げてみろ。
「次の勝負、キョンが負けたらみくるちゃんに脱いでもらうわ!」

「…………え?」
 何だと? コイツ今とんでもない事を言わなかったか?
「だってあたしもキョンも有希も脱いでるのに、一番の萌えキャラがそのまんまなんて変よ。
 女優たるもの濡れ場やお色気シーンやポロリは必要だって教えたでしょう!」
 頼むから未来人が教えるこの時代の歴史が
『過去の人類はまだ知恵が発達してないため、こんなバカな事をしていました』
というような真似は止めてくれ。同じ時代を生きてるという事が恥ずかしくなる。

「だ・か・ら。キョンはみくるちゃんを賭けるの!
 あたしは古泉くんを賭けるから、条件は五分五分ね」
「え、えええええええええぇぇーっ!? ななな何でそうなるんですかぁ!?」
 突如脱衣ターゲットに選ばれた朝比奈さんは驚愕の声を上げる。
 ってちょっと待て! そんなムチャクチャありか!
 どう考えたってこっちのハンデが思いっきり増えてるじゃねぇか。

「だってあたしがみくるちゃん取ったら、アンタわざと負けるでしょ?」
 当然だ。
 朝比奈さんに危害が及ぶぐらいならフルチンの一つや二つしてみせるのが男ってもんだ。
 なあ古泉。いや肯定しろ古泉。お前も男だろ。
「だったらその男とやらでみくるちゃんを護ってみせなさいよ。ねぇ、みくるちゃん。キョンは強いし、きっと守ってくれるわよ。
 それとも何? あたしに勝てる自信がないの? 負けを認める?」
 安い挑発だ。とことん安い挑発な上にタイムサービスされてるぐらいだ。
 どんなに挑発されようと、ここは流石に降りるべきだろう。

「おいハルヒ、それは冗談で済……」
「待って」
 俺の抗議は意外な所からの静かな横槍によって止められた。
 後ろを振り向けば、本を読んでいたはずの長門がある一点に視線を集中させている。
 その先へ視線を送ると、朝比奈さんが「えっ……」とか「でででも……」となにやらブツブツ独り言を言っている姿が目に入ってきた。
 まさか……こんな所で未来からの通信がきてるのか?

「ん、どうしたのみくるちゃん。なんだか脳が危ない人みたいよ?」
 ハルヒの心配ももっともだ。
 しかし未来からの連絡を受けているからなどと言えるはずもなく、仕方なしに俺はとりあえずフォローだけはしておく事にした。
「お前が変な事言うからだろ。見ろ、朝比奈さんがパニくって……」
「わ、わかりましたあっ!」
「のあぁっ!」
 突然のエンジェルノイズに流石に驚く。な、何ですか一体?
 何か突然の指令でも来ましたか。そうですか。
 それでしたら俺もこんなオセロは中断してどこまででも一緒に付き合いますよ。

 しかし朝比奈さんは俺の言葉が届いていないのか、なにやら暴走状態に陥りだした。
「あああああたしはっ、キョンくんを信じてますぅっ。だ、だだだからぁっ!」
 えーと、朝比奈さん? 一体どうなされたんですか。
「最優先な禁則事項が何だって言うんですかぁ!
 えぇはいもちろんわかりました。こここうなったら覚悟だって決めちゃいますっ!
 どんな指令だって受けちゃいますっ! だからキョンくんっ!」
 朝比奈さんは涙目になりながら俺の両手を握り締めてくる。
「絶対、ぜぇーったい勝ってくださいっ! お願いしますぅ。
 でないとあたし、最優先命令で脱がされちゃうんですぅぅ……」

 命令、禁則事項、最優先と未来的フレーズオンパレードだ。
 どうやら朝比奈さんに対しこのゲームに参加しろという超理不尽な指令が降りたようだ。
 何を考えてるんだ朝比奈さん(大)。これも規定事項なんですか。
 あまりの流れに俺は思わず頭を抱えてしまう。

「いいわよいいわよ、みくるちゃん! そのちょっと慌てた壊れっぷり!
 まさにドジっ子! それこそ女優! メイドみくるちゃんに求めていた姿はそれなのよっ!
 さぁさぁテンションがあがってきたわよ! 古泉くん、あんたもいいわね?」
「……わかりました。僕の命運、団長さまに一任いたします」
 古泉は既に色々と諦めたようだ。
 そもそもの発端はお前なんだからして、こればかりは自業自得と言わざるをえない。
 お前の言葉を借りるなら、これもハルヒが望んだ結果なんだろうよ。


- * -
 さて、その後の結果を巻き込まれた二人の台詞を中心にしてお伝えしよう。

「ふぇ! き、キョンくん……頑張ってくださいよぅ!」
 申し訳ありません。かくなる上は俺が最後の砦を
「全国配信」
 すいません朝比奈さん。その手入れされた髪にそっと天使が降り立つように留まるカチューシャを外していただけないでしょうか。

「おやおや。こうして傍から全貌を見ていますと、あなたが恐ろしいほどやり手なのが伺えます」
「本当よね。キョンったらオセロの腕だけで生きているんじゃないかしら」
 オセロやって賞金がもらえる大会があるのなら教えて欲しいものだ。

「では、今回はネクタイを」
 絞めるのなら手伝うぞ。そこの団長さんも得意だ。
「あんまりアホな事言ってると、アンタのこそ絞めるわよ?」
 首筋を見てそう言われると殺される寸前みたいだから止めろ。
「んじゃこっち」
 こら、バカ。そういう所を凝視するのも止めなさい。
 こっちだって色々ばれないよう必死なんだから。

「キョンくぅん……このメイド服って、ワンピースなんですよぅ……これ以上負けたらイヤですよぅ」
「そういう時はぎゅむっと抱きつくの! そうすればキョンは後ろ向けないから!」
 いやそれ何か色々当たってます。当たりすぎて集中できません。
 ああこのふくよかで甘いマシュマロの様な感触はやはりアレなのでしょうか。
 理性が飛んでしまいそうだ。
 ハルヒが右手で円柱を力強く握るような動作をしてなければ堕ちてたかもしれない。
 つーかそのジェスチャーは何のつもりだ。絞めるのか?
 油断したら絞めるつもりなのか?

「また引き分けですか。流石は涼宮さん、実力が均衡してきている証拠ですね。
 それにしても、裸足に上履きというのは何とも微妙な感じがしてなりません」
 事あるごとに妙なアイコンタクトを送るな。
「いいじゃない、裸足。健康的で開放的よ。次の不思議探索は裸足で行おうかしら」
 街中にはガラスや釘や噛み捨てられたガムや火の付いたタバコが転がってるぞ。
「じゃあ公園で」
 酔っ払いのエチケットやら犬のメルヘンやらその他諸々で以下略だ。

「Tシャツを着てきていたのはラッキーでした。朝の星座占いもダテではないようです」
 星座占いが気になるなら後ろの宇宙人に訪ねるといい。
 きっと八十八以上の星座を元に完璧な占いをしてくれるだろうよ。なぁ長門。
「七分後、朝比奈みくるは青いワンピースを脱ぎ捨てる」
「ひ、ひえぇっ! そんな、そんなぁ」
 ……ぜってー信じないぞ、その占い。

「ふ、ふひゃえぇーん! つ、次が無いですよキョンきゅううん! もっと真剣にですぅ!」
 ごめんなさい。こう見えても俺は今までのオセロ勝負で一、二を争うぐらい真剣なんです。
 だから頭をポカポカ殴るのも、ぎゅうぎゅう後ろから抱きつくのも、俺的にはかなり嬉しいけれど、今は抑えてください。


 これで何回戦目だ。俺は後何回勝てばいい。
 朝比奈さんに肩をつかまれ俺はそんな事を考えていた。ちなみに朝比奈さんは現在可愛らしい下着にピンクのキャミソール姿、らしい。
 メイド服のワンピースが脱がされてから、俺は一度も後ろを向いてないので確認していない。
 ついでに言うとハルヒの脇に立つ上半身裸でズボン姿になっている古泉にも見るなと言っている。
 本当だからうらやましがるな。そして俺をチキンと呼ぶな。

 もしこの状態の部室に誰か入ってきたら間違いなく問題騒動だろうな。
 俺は『制服を大っぴらに脱ぎ捨てる為のストリーキングの団』に入団した覚えは無いんだがな。
 いつの間に時空改変が起こったんだ。一体今度は誰の仕業だ。今度は何処へ飛べばいい。
 色々考えお茶をすすりながら、俺は唯一つの時を待っていた。


 まだか。
 まだなのか──長門。


 俺が通算八回目の引き分けを導いて大きく溜息をついた時、先ほどから俺が今か今かとずっと待ちわびていたその瞬間がようやく訪れた。
 長門が動いたのだ。
 と言っても俺へ加勢してくれる訳でも敵対してくる訳でもない。

 パタン。
 長門はいつも通り、軽やかでいて重い音で、読みふけっていた本を閉じただけだった。

「え、うそ!」
 ハルヒはびっくりして長門を見る。だが長門が普通に取る行為に時差は無い。
 そう、俺が勝つ事よりはるかに難しい引き分けを狙い続けてまで待っていたのはこれだった。

「残念だがタイムアップだ、ハルヒ」
「そ、そんなぁ! せっかく後ちょっとでとんでもない事になるのよ!?」
 させてたまるか。いくらお前でも最終下校の見回りを裸寸前の団員たちで迎えるよう事はしないだろう。
 追い詰めず、追い詰められず。
 俺の寿命が削るような長い勝負はこうして無事決着を──

「あと一回っ! キョン、あと一回だけ勝負っ!」
 ハルヒが珍しく、というかもしかして初めてじゃねぇか?
 机に身体を乗り出して、なんだか頼み込むような目線で俺に言ってきた。
 今のブラのみの姿で、ちょっと上目使いにして頼み込むのはレッドカード級の反則だ。
 そんな思いがけないハルヒの姿に、俺は仕方なく言ってやった。

「……本当に最後、これ一回だけだぞ。見回りが来たらマジでやばいんだからな」
「わかってるわよ! でさ、やっぱ最後は得点百倍の大逆転チャンスよね。
 これに勝ったら今までの負けはぜーんぶチャラなんだから!」

 俺はもしかして選択肢を誤ったのだろうか。


- * -
「いえ、全てにおいてあなたは十分以上の働きを見せてくれましたよ」
 並んでお茶をすすりながら、古泉は心底微笑んでますよというような微笑を浮かべていた。

 最後の勝負を前に一度休憩を申し込む。
 俺は古泉と共に壁を向きながら朝比奈さん特製のお茶を頂いていた。
 何で折角の休憩にコイツといるかというと
「ぜぜぜ絶対こっちを見たらダメですよぅ」
と、朝比奈さんに念を押されたためだ。あなたの命令なら十戒以上に厳守しますよ。

「こんなルールを持ちかけたことは謝ります。ですが結果は僕の想像以上でした」
 何がだ。お前はエロティシズムな世界でも望んでいたというのか。
「いえいえ。正直に言いますと、最初はほんの退屈しのぎで考えていました。
 軽い刺激剤として、あなたには涼宮さんを笑わすためのピエロになっていただこうと思っていたのです。
 それゆえ、わざわざ涼宮さんの目の前で脱衣オセロなんて始めたんですよ」
 だろうな。最初の連敗はどう考えてもおかしすぎた。
 だが長門が参戦してからは、ハルヒは全く力を使ってないんだよな。

「それはもう確実です。あなたが涼宮さんと勝負する前に言った保険が効いた結果ですね」
 はて、何の事かね。

「とぼけないでください。あなたはしっかりと保険を掛けましたよ。
『正々堂々と』戦おう、とね。だから涼宮さんは力の全てを無意識的に抑え込んだのです。
 おかげでどうでしょう。涼宮さんは現在、ここ最近では一番の満足を感じています。
 何故だかわかりますか?」
 さぁてね。あいつの脳が危ない桃色吐息で染まってるからじゃないのか。

「こちらもとぼけるのですか? まぁいいです。釈迦に説法と知っててもお教えしましょう。
 あなたが、涼宮さんと真剣に勝負しているからですよ。
 しかも意見の対立や信頼関係の亀裂といった深刻な問題からではなく、ゲームという純粋な遊びで真剣に楽しんでいる。ここがポイントなのです。
 クリパや孤島での勝負はいわゆるレクリエーション、ただの遊戯でしたが、今回は違います。
 あなたが、ここまで真剣に涼宮さんと勝負をした事は、実は今まで一度も無かったはずです。
 だからこそ、涼宮さんはあなたが真剣に接してくれてる事に何よりも嬉しく感じ、そしてあなたと真剣に遊べるこの状況が楽しくて仕方ないんですよ」
 その結果、朝比奈さんをはじめ周りをメチャクチャ悲惨な状況に巻き込んでいるがな。

「確かに。ですが朝比奈さんに条件を受けるように指令が降りたのも、おそらく朝比奈さんの上の人が僕と同じように判断したからだと思われます。
 それともあなたはゲームより、アダムとイブの閉鎖空間の方がお望みなのですか?」
 黙れ。でないと今すぐ貴様と真剣勝負して身包みはがすぞ。

「それは困りますね。さてあなたの素晴らしい努力と実力によって、
 この脱衣オセロ勝負は誰一人ボーダーラインを超える事無く時間切れというまさに理想的な終結の形へと持って来る事ができました。
 ですが、あなたは最後の最後に涼宮さんに最終戦のチャンスを与えてしまいました。
 いえ、その行為は責めていません。
 むしろ涼宮さんの気分を考えれば、良く与えてくれたと褒め称えたいぐらいです。
 ですが……わかりますよね。問題はその与えてしまった最終戦の結末です。
 僕の予想では、きっと涼宮さんはこんな事を言いだず事でしょう」


『最後なんだし、負けた方は観念してぜーんぶ脱いじゃうのよ!』

 一字一句間違え無しに同感する。全くあいつはバカか。
 花も恥らう女子高生がオセロ勝負ごときに全裸を賭けるなと言いたいね。
 そういうバカが出てくるにはまだまだ早い季節だぞ。
「そうですね。ですがあなたが太鼓判を押すぐらい、事実そう言い出す可能性は大きい。
 そしてそうなった時、我々がもし難色を示せばどうなると思いますか」
 お前の残業が増えるだけだ。頑張れよ、ニキビ治療薬。

「お肌の為にも、治療薬などは本来使わないに越したことは無いんですよ。
 そこで一つ提案があります。全てを穏便に済ますため、こういうのはどうでしょうか」
 古泉の提案してきた内容に、俺は多少なりとも驚きを見せていた。
 お前のその悪知恵働く灰色の脳味噌は、そこまで俺と考えが一緒なのかよ。
「部員ヌードショーよりははるかにましです。僕だってそう思いますからね」


「さぁキョン! 最終戦よ! クライマックスよ! フルチンショーの開幕よ!」
 大好物の夕食を待ちわびる子供のごとく幸せ絶好調の満開笑顔でハルヒが俺を呼ぶ。
 お前の好物はフルチンなのか。
「最後なんだし派手に行きましょう! これに負けたら全部脱いでもらうわよ!
 みくるちゃんもそんなキャミソール姿じゃ中途半端でしょうし」
 そんな姿と言われても、俺の頭はその朝比奈さんに振り向けないよう後ろから頭を両手でしっかり固定されているため、微動だに動かす事もできない。
「だめですぅ……こっちを見ちゃダメですよぅ」
 わかってます。誓って振り向きません。ですからその手を離してください。
 小刻みに震えるあなたの愛くるしい白い御指が目に入りそうで凄い怖いんです。

「それなんだがハルヒ。折角最後なんだったら、いっその事賭けの内容を変えないか?」
「なぁに、フルチンが怖くなった訳?」
 うるせぇ。俺が負けると決まったわけじゃねぇぞ。それとさっきからフルチンフルチン言うな。
 一応女なんだったら朝比奈さんみたいに恥じらいの一つぐらいもて。
「フルチンはフルチンじゃない。アンタこそうっさいわよ。
 ……で、賭けの内容を変えるって、具体的にどうするわけ?
 フルチン免除に値するぐらいの面白い案は、当然出してくれるんでしょうね?
 そうでなかったら絶対に許さないからね」
 そう言いながらオセロの脇にしっかりデジカメを用意する。
 お前はそんなに俺のフルチンが見たいのか。

「ハルヒ。俺が勝ったら一日でいい。これを俺につけさせろ」
 そう言って俺はハルヒに赤い腕章を差し出した。
 それはハルヒが普段つけているものであり、そこには当然「団長」と書かれていた。
「な! キョン、あんた団長の座を狙っていたの!?」
 いや、傍若無人なお前を見てると一度ぐらいやってみたいと興味が出てきてたんだ。
 これこそお前の裸に匹敵するもんだと思わないか?
「……いいわ。その条件のんであげる。でも私が勝ったらアンタもみくるちゃんも」
「それなんですが、涼宮さん」
 古泉がいいタイミングで口を挟む。
 まぁこの流れはさっき話し合った事だから当然といえば当然だが。


 古泉の提案は、俺が一日団長権を賭けろと提案させる事だった。
「おそらく涼宮さんは受けるはずです。そして僕がそれに見合う、ストリーキング以外の案を提示します。
 今の涼宮さんは勝負が真剣ならば、それ以外の部分に付加価値を求めてません。
 これで誰かが裸になるという結末は回避できるはずです」
 ここまでは俺が考え、古泉が告げた計画通りの行動だ。
 さて、問題はコイツが何を提案するのか、だ。
 こいつの考えだけは未だに把握できないからな。


「それなんですが、涼宮さん。僕に提案があります」
 そう言って古泉は何かのチケットを二枚取り出してきた。
「この冬にオープンした遊園地の入場チケットが丁度二枚手に入りまして。
 ですが、残念な事に有効期限が近づいているんですよ。
 今週末に誰かと行こうと思ってましたが、気の会う相手も見つからない状態です。
 そこで、涼宮さんにこれを二枚とも進呈します」
 古泉が優雅に指しだしたチケットを受け取り、ハルヒは目を丸くする。

「え、うん、ありがとう。……あっ!
 ここってなんだか凄いジェットコースターができたって所じゃない。
 とにかく凄いっていうけど、どんだけ凄いのか行ってみたかったのよ」
 とりあえず喜ぶハルヒ。だがそれもつかの間で、
ハルヒは再び抽象絵画の真意を読み取ろうとする一般人の様な表情を浮かべていた。

「で、古泉くん。これが何なの?」
 うむ、俺も聞きたい。一体これは何のつもりなんだ?

「チケットを良く見てもらえばわかると思いますが、そのチケットはただの園内入場券です。
 つまり、園内でのアトラクションの利用代や昼食代交通費などは別途払う必要があるんです。
 それもあって誘う人間を探していたんですけれどね」
 一呼吸置き、髪を軽く流す。裸でそんなことをしても似合わんぞ。
 いや、意外と似合うのか?

「さて、ここで提案です。
 涼宮さんがこの勝負に勝たれた時、この券を彼と共に使うのです。
 そして遊園地で掛かる費用の全額を、敗者である彼におごらせるというのはどうでしょう。
 そのうえ、どんなわがままに対しても拒否権は発動させることが出来ない。
 そう、遊園地という幻想王国で、絶対君主の姫君と一日従者が誕生するという訳です」
 待て、遊園地内の乗り物代に食事代全額だと!? それは一体いくら位になるというんだ!?
 俺は今金欠だって誰にでもない、お前には最初に言ったよな!?
 その上絶対服従だと? それはつまりアレか、俺に死ねと言っているのか。

「全額キョンのおごりねぇ……うん、いいわ! それで行きましょう!」
 お前も聞けよ。何だよその笑顔は。無い袖は振れぬって言葉を知らんのか。
「どうせアンタの事だから、金欠だって言っててもお年玉とかはしっかり貯金してるんでしょ?
 こっちも大事な一日団長権を賭けてるのよ。アンタも男らしく従者の覚悟を決めなさいよ。
 それともみくるちゃんとのヌードショーの方がお望みな訳?」
 ハルヒの言葉に俺の顔を押さえる手がびくっと震える。
 あぁそうでした。俺は今あれこれとケチをつけてる立場じゃないんでしたね。
 どんな不条理な代替案であれ、朝比奈さんの嬉し恥ずかしストリップショーだけは回避せねばならない。
「んな訳あるか。……よぅし、わかった」
 そう宣言して、俺はその条件を飲んだ。

 いいぜハルヒ。
 今度だけは俺も手を抜かないし、引き分け狙いなんて事もしない。
 正々堂々とした真剣勝負だ。
 それで俺に勝てたら、遊園地で従者にもなるし何だっておごってやろうじゃないか。

「よし、決まりっ!」
 ハルヒは俺の言葉に頷くと、びしっと第一手目を盤に打ち付けた。


「ふ、ふえぇー」
 俺の頭をいまだ抑える朝比奈さんも安堵の息を漏らした。
 あうん。真剣勝負中に不意打ちで耳に掛かる吐息はかなり反則です、朝比奈さん。


- * -
 波乱万丈、桃色空間、奇妙奇天烈、摩訶不思議。
 昨日の乱痴気騒ぎは結局なんだったのかと思うほど、今日の部室は静かだった。
 まぁ今日は珍しく誰よりも先に部室にきているので当然といえば当然なのだが。
 俺はパソコン席に座ると、昨日ハルヒから期間限定で奪い取った腕章を左腕にはめた。

 なるほど。ハルヒの視点に座ってみて一つわかった気がする。
 何故部室に来るたび、ハルヒがいつもこの席で笑っているのかが。
 この席からは、実に部室内が良く見える。俺たち四人の姿が全員見渡せるのではないだろうか。
 そして前方にはこの部屋唯一の扉。
 気の会う団員達も、笑い合える友人達も、トラブルを持ち込む強敵達も、全てはあの扉からやってくる。
 早く誰か開けてくれないか、俺の心はそんな思考でうずうずしてしまっていた。


 さて今回、俺が団長としてやろうとしている事はひとつだった。
 元々脱衣から逃れる為の一日団長だ。別に団の規則を変えようとかは思ってない。
 あえて言うなら、次回の不思議探索の場所をあの遊園地にしてやろうと思っているぐらいだ。
 古泉にはチケットの追加は発注済だ。きっと今日には九人分揃えてくれる事だろう。
 多いのは補欠とされてるメンバーの分さ。
 真剣勝負もいいけど、やっぱ遊ぶなら健康的に大勢で騒ぐ方が楽しいぜ、ハルヒよ。


 強い風が窓を叩く。
 先ほどからストーブをつけているが、やはりこの部室全体を暖めるには少々力不足のようだ。
「人がいないのもあるが……まだ寒いな」
 両指を軽くほぐして暖めながら、俺は少し気になったことを考えていた。

 昨日、俺は途中からこの寒さを感じないでいた。
 今日よりもはるかに寒い格好をしていたにもかかわらず、だ。
 俺だけではない。キャミソール姿だった朝比奈さんやブラだけだったハルヒもだ。
 寒さを感じなくなったのはいつだったからか。
 それは俺の後ろに長門が座ってからではなかっただろうか。


 扉がすっと開いた。さっそく誰かのお出ましだ。
 ノックも無しに静かに開けるのは、消去法で行くと長門ぐらいしかいない。
「よう、長──」
 扉の向こうに現われた長門の姿を確認するなり、俺の言葉はそこで止まった。
 いや、誰だって止まると思うぜ。
 なにせ雪だるまみたいな姿の長門が現われたんだからな。
 一体何なんだ、その格好は。




「……今日は十六着。問題ない」


 前言撤回しよう。
 俺は全員が揃った時点で「団内脱衣勝負禁止」を宣言する事を硬く決意した。

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