イナズマ ケンキュウジョ

色々な場所へ投下したSSのリファインしたもの。 現在は「涼宮ハルヒの憂鬱」がメイン。

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宇宙人×未来人×超能力者

これも自分の色が濃く出ている話。タイトルはマンガ版のコピー文から。
スペックではキョンが最強のはずなのに、何故か長門が最強に思えてくる。
「朝倉涼子の感情」の原案はこれから抽出したもの。

※ 性的描写があるので注意



『宇宙人×未来人×超能力者』

- * -
・プロローグ

「東中学出身、涼宮ハルヒ」
 この時は別に振り向く必要は無いと、俺は前を向いたままその涼やかな声を聞いていた。
「ただの人間には興味はありません。この中に宇宙人で未来人で超能力者がいたらあたしの所に来なさい。以上」
 さすがに振り向いたね。こうして俺は涼宮ハルヒと出会っちまった。
 しみじみと思う。偶然だと信じたい、と。


「しょっぱなの自己紹介のアレ、どのへんまで本気だったんだ?」
 思えばこの時、運命のドミノ倒しの一枚目を押したんだと思う。よりにもよって自分で、だ。
「自己紹介のアレって何?」
「いや、だから宇宙人がどうとか」
「あんた、宇宙人で未来人で超能力者なの?」
「……違うけどさ」
「だったら話しかけないで」


 そして魔が差したとはまさにこの事だろう。ゴールデンウィークが明けたその日の事。
「曜日で髪形変えるのは宇宙人対策か?」
 その言葉にハルヒはいつもの笑わない顔で反応した。
「宇宙人で未来人で超能力者への対策よ。っていつ気づいたの」
「んー……ちょっと前」
「あっそう。……あたし、あんたとどこかで会ったことある? ずっと前に」
「いいや」


「付き合う男全部振ったって本当か?」
「本当よ。全くくだらない男しかこの世には存在しないわ」
「じゃあどんなヤツならいいんだ。やっぱり宇宙人か?」
「もちろんよ。それと宇宙人で未来人で超能力者よ」
「……前から気になってたんだが、いくらなんでも欲張りすぎじゃないか? その属性は。
 宇宙人で未来人で超能力者。どれか一つでもレアな存在なのにオモシロ属性三倍だぞ?」
「だってそのほうが面白いじゃないの!」


 そしてハルヒは謎の部活を立ち上げ、俺は一風変わった連中と出会う事になる。

「長門有希」
「いい」

「おそらく、これがこの時間平面状の必然なのでしょうね……」
「それからわたしのことでしたら、どうぞ、みくるちゃんとお呼び下さい」

「古泉一樹です。……よろしく」
「入るのは別にいいんですが、何をするクラブなんですか?」
「良くぞ聞いてくれたわ! このSOS団の活動内容。それは」

「宇宙人で未来人で超能力者なヤツと一緒に遊ぶ事よ!」
 全世界の時が静止したかに思われた。なんてな。


 とまぁ色々あり、いつの間にやらハルヒは俺を巻き込んでSOS団なる非認可組織を生み出していた。
 そして今、俺は長門に連れられ、彼女の自室でお茶を飲んでいた……。


- * -
「涼宮ハルヒとわたしは普通の人間じゃない」
 いや、それは何となくわかっている。
「この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
 俺の突っ込みを軽やかにスルーし、何だか妙な事を言い出した。

「……それが、あなた」
「俺かよ!?」
 思わず突っ込んでしまった。そのオチにはさすがにビックリしたぞ。
 普通は、それがわたし。とかさらっと言い出す場面だろ。
 さっき普通の人間じゃないとか言ってたのは何だったんだ。

「わたしは人間。ただ他者とのコミュニケーションが苦手。だから普通じゃないと言った。
 ……わたしの本当の仕事はヒューマノイド・インターフェース、つまりあなたのサポート」
 おいおい、何だか妙な流れになってきてないか?
 仕事? サポート? インターフェース?
 長門の電波話を話半分以下で聞き流しながら、俺はこの状況をどうすべきなのか考えていた。
 俺が宇宙人だって? んなアホな。



 そして第一回不思議探索決行日。俺は朝比奈さんと二人デート気分で町を闊歩していた。

「キョンくん、お話したいことがあります」
 あなたの語るお話でしたら税制改革案だって一大感動巨編になることでしょう。それで一体?
「あなたはこの時代の人間ではありません。もっと、未来から来ました」
「また俺!?」

 真剣な顔で朝比奈さんに告げられる、その瞬間まで。
「わたしはこの時代の人間です。キョンくんのお手伝いをして欲しいと頼まれました。
 キョンくんの妹さんは、本当はわたしの妹で、この時代の隠れ蓑に……」

 三年前にハルヒがどうこうという話をやはり左から右へと流しながら、俺は頭を抱えていた。
 ええい、全部保留だ保留。



「凄く聞きたくないのだが、古泉。
 お前ももしかして万が一ひょっとしたらなぁーんか俺に話したい事があったり無かったりするのか?
 いややっぱ無いよな? 無いなら無いでいいぞ?」
 俺は勤めて優しく古泉に語りかける。せめてお前は一般人であってくれ。
「おや、お前もと言うからには既にお二方からアプローチを受けているようですね」
 聞きたくなかった。というかもう帰っていいか、俺。

「……まずお前の正体から聞こうか。実は超能力者の応援部隊でして、などと言うんじゃないだろうな」
「先に言わないで欲しいな」
 三度頭を抱える。で、その超能力者ってのはやっぱり。
「ちょっと違うような気もするんですが、そうですね、超能力者と呼ぶのが一番近いかな。
 そうです、実はあなたは超能力者なんです」

 何で俺の正体を俺以外の連中が語るんだ。しかも三連発で。
 つまりアレか。俺はどこぞの誰かが望んだ「宇宙人で未来人で超能力者」だったというのか。
「そこまでわかっていれば話は早いです。実際その通りなのでね」
 良かったなハルヒ。お前の求める三倍頑張る珍獣は意外にあっさり見つかったぞ。
 さてロズウェルの電話番号は何番だったか。それより色のついた救急車を三台呼ぶか?
 神がどうのと語る古泉を完璧に無視し、俺はただひたすら丸机に突っ伏して呟いていた。


- * -
・宇宙人編

 他称、宇宙人に造られた人造人間。他称、時をかける少年。他称、少年エスパー部隊。
 俺自身に自覚も記憶も全く無いというのに何なんだこの属性の山は。
 誰かが俺の枕を睡眠学習装置にでもしていたのだろうか。

 ……などと俺は別に驚いたりはしない。そりゃそうだ。
 誰がどう考えたって、こんなのあいつら全員がぐるになって俺をはめているとしか思えないだろ。
 なるほど読めてきた。首謀者はハルヒあたりで、これはきっと壮大なドッキリなんだな。
 しかし、こんなあまりに壮大かつ電波かつ現実離れしすぎたドッキリに、一体誰が引っかかるというのかね。
 それこそハルヒじゃあるまいし。アイツなら楽しむ為にわざと引っかかりそうだが。

 放課後、SOS団の活動を終えた俺はそんな事を考えながら教室へと向かっていた。
 これが下駄箱にラブレターでも入っていて、放課後に呼び出されたとか言うのなら嬉しい状況なのだが、現実はそうそう甘くは無い。
 SOS団の活動終了を終え、後片付けをしながらカバンを見てみると、明日提出の課題のノートが入っていない事に気がついただけだ。
 教室にでも忘れたかと考え──実際忘れそうな場所はそこしかないのだが──俺はハルヒたちと別れて教室へと足を運び今に至ると。


 さて、一般常識がある諸兄諸姉に質問したい。
 俺の知る教室とは、扉を開けたら壁があって中に入れない部屋の事では断じて無いはずなんだが、その認識は間違っているのだろうか。

<……返…を…>
 壁に手をついて何事かと考えていた俺の脳裏に言葉がよぎる。
 何だ今のは。ついに俺まで電波な影響が出始めたのか。いやきっと疲れてるんだな。うん。
 これはもう今日はノートの事は諦め、明日の休み時間にでも国木田先生に頼み込むとしよう。

<……たの返…を求……。…なた…返答を…む…>
 ダメだ。どこかで聞いたような単調にして澄み渡る声が脳裏をかけ始めた。これは本格的にヤバイかもしれない。
<……あなたの、返答を求む…>
「……長門?」
 声の主にようやく思い当たり、俺は呟き返していた。

<そう。ようやく接続できた>
 妄想が返事を返してきた。なんだかわからないがとりあえず返答してみる。
 人の脳内に何電波飛ばしてるんだ。
<わたしは今、あなたの教室にいる>
「人の話を聞けよ。……って教室? 俺の教室は今壁で覆われているぞ」
<わかっている。わたしはその中にいる>
 どうやってだ。いやそもそも何でお前はそんなところにいるんだ。
<別のインターフェースと接触した……あっ>
 と、長門から長門らしからぬ声が漏れた。
 どうした長門。何だ今の声は。

<……緊急事態。救援を求む>

 いつも通り起伏の無い淡々とした口調でさらっと告げてくる。
「な、ちょっと待てっ! 本当にお前は長門で、今この中にいるのか!?」
 妄想だと思っていた声に叫び返す。普通はそう思うだろ。
<わたしはここにいる。壁に手を。思念して──>

 長門に言われたとおり壁に手を置き、そして思念する。
 壁が<壁>という情報で結合されたモノである事を。
 そして結合できるモノは、当然結合解除もできるという事を。

 何故かそんなムチャクチャな思念が理解できた瞬間、恐ろしいほど心が静寂になる。
 遠く離れた場所で舞い落ちる葉の音すら感じ取れそうだ。
 俺は指先を少しだけ強く壁につけ、モジュールの使用を申請した。

「──情報の結合を解除するっ!」

 次の瞬間壁は勢いよく吹き飛ぶ。これもCG処理ってやつでいいのかね。
 緊張を張り巡らせて内部を警戒しながら、俺は今ぶち開けた穴から教室へと入っていく。
 とにかくこれが俺の普通の人生の終焉への、本格的な第一歩となったのは間違いなかった。


- * -
「………」
「あ……ああっ! くひゃうんっ!」

 教室の中は異空間で、何故か突然の濡れ場だった。
 あまりの事に俺が長門譲りの三点リーダで黙ってしまう。
 こりゃまた一体何と言う欲望渦巻くエロゲーへの第一歩を踏み出したんだ、俺は。

「待っていた。緊急事態」
 そういう長門はいつもと変わらぬ制服姿で、ただ眼鏡だけがなく、そして同じ制服姿を纏った誰かの上にマウントポジション状態でまたがりながら、自分の左手を組み伏せてる相手のセーラーの中へ、右手をスカートの中へとそれぞれ差し込みつつ、何やらもぞもぞと動かせていた。
 誰がどう見ても下のヤツの方が緊急事態だ。

「……長門、とりあえず説明してくれ。一体何がどうなってる」
「あなたに教えておく。でも待って」
 そのまま長門は組み伏す女生徒に呟く。
「うまく実演できない。情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない」
 数ミリ単位で瞳と眉を動かし、おそらく困惑していると思われる表情を現してくる。
 その間も両手は動かすのを止めず、下の人はじたばたと大きくもがきながら声を荒げていた。
「も、もう……いいかっ、げ、うあ……っ!」
「でも、逝って」
「あ、あ、ああああああああああああああーーー……っ!!」
 女生徒が少しだけ背筋をそらせて小刻みに震えた。そのまま数秒経過してようやく床に倒れる。
 だが長門の手が止まる事は無かった。
「ちょ……今、は、だめ……く、くううっ、な、なめないでよねおおおおっ!」

 突然組み伏せられてた女生徒の右手が光ったかと思うと、軟体生物の触手の様な形に変化させて長門を貫こうと勢いよく攻撃してきた。
 だが長門は数センチの動きで器用にそれをかわすと、セーラーから即座に抜き出した左手を流し絡めて脇の下でその光の触手をがっしり固定してしまう。
「え、ウソッ!?」
「一つ一つの攻撃が甘い」
 叫びたい気持ちはわかる。俺だって自分の目を疑いたい。特殊CGのSFX相手にどうしてそこまで優勢なんだよ長門。
 お前は本当にただの地球人なのかと、今度牛丼でも食いながら小一時間じっくり話し合おうじゃないか。

「わたしの能力についても、自分の身体の感度に対する認識も甘い。だからわたしに弄られる」
 そしてスカートに差し込んでた右手を激しく動かしだした。

「え、ま、くふぅああああああああっ!」
「だからわたしに侵入を許す」
 どこに侵入を許したのかは優しさとして聞かない方がいいんだろうな。


 さてこの状況、俺は一体どこから突っ込むべきなんだろうか。
「ここ」
 頭が痛くなりこめかみを押さえながら自問していた俺の呟きに長門が答える。
 何の事かと視線を送ると、長門が女生徒のスカートを内側から器用に捲り上げ、露になった白い下着の中央太ももの付け根あたり、つまり女の子の絶対秘密領域を指差していた。
「挿入するものが無い。緊急事態」
 そうか、緊急事態か。確かに俺の短い人生で初めて見た緊急事態だ。

「……もう一度言う、長門。なぜ朝倉涼子を襲っているのか説明しろ。朝倉の変化した腕の事も含めてだ」



- * -
「朝倉涼子はあなたとほぼ同じ存在。情報統合思念体のインターフェース」
「朝倉涼子は涼宮ハルヒの近くにいるわたしを殺す事で、涼宮ハルヒの出方を見るつもりだった」
「わたしをここへ呼び寄せたのはその為。でも朝倉涼子は失敗した」
「わたしは念のため、あなたをここへ呼び寄せるよう手を打っておいた。あなたのノートはわたしが預かっている」
「あなたのノートの取り方は非効率的。要点を押さえていない。改善が必要」
 余計なお世話だ。

 話がそれたがつまりアレか。朝倉は宇宙人で、長門は朝倉に殺されかけたと。
「そう」
 で、それをさせない為にこうして俺に説明している間も
「もう、だめ、意識が、情報が、崩壊、しちゃ……ああああああああんっ!」
 ……両腕を休めずに朝倉を攻め立てている訳か。
「未だに理性では信じたくはないが、俺に宇宙的パワーがあるのは納得した。オーケイ、わかった、認める。
 それで長門、俺の力で朝倉を気絶させる事は可能か。可能ならやり方を教えてくれ」
 このまま話をすすめるには、正直眼のやり場も耳の立て場もズボンの状態も大弱りだ。


 悶え続けていた朝倉に軽く手を触れて気絶させる。
 気絶した後の朝倉の表情がもの凄く安らかに見えるのは、はたして俺の気のせいだろうか。
 長門は朝倉から両手を開放し、つづいて俺に空間修正の方法も教えてくれた。

「基本は同じ。全ての事象を情報として扱えばいいだけ」
 長門の指示に従い、異空間化していた教室を元の状態へと戻していく。
 自分でしている事ながら改めて驚きを隠せない。一体何でこんな事ができるんだ俺は。
 その間、長門には朝倉の衣服を整えさせた。流石にそっちは俺の管轄外だ。


「話を聞きたい。とりあえず場所を変えよう。この状態も含め、教室じゃ色々と問題が多い」
「了解した。わたしの家に……あっ」
 どうした。何かまだ困ったことでもあったか。
「……眼鏡が無い」
 長門がそう言って顔に手を置く。言われてみれば、先ほどから眼鏡をしていない。
 眼鏡は教室の隅に落ちていた。レンズは無事だがフレームが曲がりきっている。
 こんなのを修復とかもできるのかなと考えながら眼鏡を覗いてみたが、視界が殆ど変わらなかった。

「ん、この眼鏡……もしかして度なしのダテか?」
「入ってない。わたしの視力に問題はない」
 あっさり認める。しかし長門は何でダテ眼鏡なんてしているのだろうか。
 俺が聞くと長門は少しだけ顔をうつむかせ、小さく答えた。
「……視線が、苦手」

 そういえばコミュニケーション下手だとか言っていたな。
「それはすまなかった」
 慌てて視線を外す。だが長門は逆に俺に視線をぶつけてきた。
「あなたは大丈夫、外さなくていい」
「そうか。……でも長門。眼鏡がない方が、お前には似合ってるぜ」
 俺には眼鏡属性も無いしな、最後にそう付け足した。


- * -
 俺は朝倉を背負い、長門と共に家へ向かう。
 教室で俺が朝倉を背負い、長門が何故か俺の腕に軽くしがみ付いた姿を、何だか陽気に奇妙な歌を歌いながら現われた谷口に目撃されたりもしたが、俺は先ほど覚えた気絶攻撃を食らわせる事で事なき事を得た。多分。

 そして現在。


「……ぁ……んっ……くふぅ、ぁあっ!」
 全裸にされた朝倉は、再び長門によってたっぷり攻め立てられていた。

 長門の口は朝倉の耳たぶから首筋へゆっくりと流れ落ちつつ、要所要所で吸ったり軽く噛んだりし、そのたびに朝倉からは切ない声と吐息が漏れる。
「だ、吸う、のはダ……メ……」
 そのまま形の整った二つの胸に対し、長門は名を表すような白い指で、腕の両脇からゆっくりと撫で回すように登山を開始させる。
 そのうち片方の手は登山軌道を離れ、ヘソを通ってわき腹、腰へとゆっくり降りていった。
「ひゃうんっ、ぞ、くぞく、する……よ。なにこ、れ……」
 双丘の頂、朱に染まるニップルを人差し指で軽く回し押さえ、二本指で小刻みに摘み、そのまますっと胸を横断して対なる頂へと移す。
 腰まで降りた指はそのまま股下まで走る関節の括れを伝い、そのまま茂みに突入かと思いきや、股下から膝へと指を下ろして太腿の内側を撫で始めた。
 朝倉から流れ出る音は既に言葉にならず、もはや抵抗らしい抵抗も見せていない。
 刺激が与えれる度に全身を小刻みに震わせながら、長門に対して全てを委ねていた。

 ……などと官能文庫さながらの冗長で猥雑な表現回しを使い、俺なりに冷静な判断で状況解説してみたつもりだがどうだろうか。
 いや、既に俺の思考に淫靡な霞どころか濃霧がかかっているのはわかっている。
 しかし俺も先日ようやく高校生となり、大人の階段を北高への坂道と共に登り始めた健全な精神を持つ男子だ。
 学年でもトップクラスの容姿を持つクラスメイトの美少女が、同じくトップクラスの部活仲間の美少女と、手を伸ばせば届きそうな目の前であられもない痴態に耽る姿をこれでもかと言わんばかりに見せ付けられてそれを沈着冷静に眺める事ができるヤツがいたとしたら、そいつは悟りを開いた聖人君子か、ホモか、あるいは古泉のどれかだろう。
 もちろん俺は聖人君子でもホモでもましてや古泉でもないので、その何ていうか色々と持て余している状態となっている。

「まだダメ。服を脱いで、気分の高揚を維持」
 そんな俺の悶々とした気持ちを察したのか、長門は犬におあずけを教える飼い主の如く視線で「待て」と命令してきた。
 仕方ないのでこちらも全裸になって正座し、気分を高揚させて悶え待つ。ワクワクテカテカとでも唱えてようか。
 長門が必死に朝倉のヒットポイントを削る間、どうしてこんな現状になっているのかを振り返ることにする。
 そうだな、長門の家についたあたりからでいいだろう。


- * -
 長門の家に上がり、まずはコタツをどけて空間を確保する。そこへ朝倉をおろすと、俺はこの部屋を情報管轄下に置いた。
 俺にある未来人の属性はダテではないらしく、俺は朝倉より桁違いどころが次元違いと言えるほどハイスペックなインターフェースなのだと長門は言う。
 どれくらい凄いのかと言うと、この時代の情報統合思念体ぐらいならガチンコ勝負もできる程に進化しているのだとか。
 どれくらい凄いのか全くもってわからない。
 ただまあ、そのインターフェースの劇的進化の理由がアイツでない事を心から願いたい。


 朝倉の情報統合思念体との連結も含めほぼ全ての能力を封鎖してから覚醒させる。
 今の朝倉にできることは一般人と同じような事だけだ。
「お手上げ。流石は上位種ね。それとも、あなたが特別なのかな」
 朝倉もわかっているらしく、台所から包丁を持ち出すとかいった抵抗をしようともしなかった。

 俺は改めて朝倉と長門から今回の凶行について説明を受ける。
 朝倉は三年前からハルヒを監視していた。
 だがハルヒが思ったほど変化を見せない事に、朝倉も直接的上にいる思念体も苛立ちを覚える。
 そこで朝倉は自ら事態を動かそうと、今回の長門強襲を行ったという事だった。

「わたし自身の意思か、上からの介入かはわからないわ。でもね、そんなのどうでもいい事なの。
 変化の無い対象を常に監視し、一定間隔で『変化なし』で埋め尽くされた報告を、この三年わたしは毎日毎日飽きもせずに出し続けた。
 ……もう、うんざりなの」
 そう最後に呟いた時、俺はコイツを知ってから初めて、朝倉涼子の真の表情というのを見たような気がした。
 それはいつもの取っ付き易い姿でないが、それでも俺はその表情の方に好感を持った。
 命令とか事態の改変とか色々言っていたが、結局の話、コイツは日常に退屈していたんだ。
 そしてコイツもハルヒのように気づいたんだ。
「事態が動かないのならば自分で動かせばいい」って事に。


 つーか、もしかしてSOS団を思いついたハルヒの、あのエウレカ叫びが今回の原因なのだろうか。
 俺は聞くのが怖くてその質問を口に出さない事にした。


- * -
 朝倉が宇宙人だとかは正直どうでもいい話で、結局は誰にも被害が及ばなければいいと俺は思っている。
 なので俺は朝倉に事態の凶行を止めるよう進言してみた。
「うん、それ無理。だってインターフェースは操り主の命令には逆らえないもの」
「朝倉涼子の管轄者が急進派である限り、朝倉涼子の存在は危険を伴う」
 残念ながら俺の平和的提案は反対二票であっさりと否決されてしまった。
 操り主の意思が変わらない限り、朝倉は強行的に走り続けるという事か。

 ……ん、待てよ? つまりそれはもしかして『こういう事』なのか?


「朝倉、これは興味本位で聞くんだが。もしお前に対しての全ての指令が外れたら、お前何がしたい?」
「え?」
「ハルヒの監視も他の指令も全くなし。情報統合思念体への報告とかを行う必要も無しだ。
 お前の行動は完全に自由で、勝手気ままに動いて構わない……ってなったら、お前は何がしたいんだ?」
 現状が退屈と言うことは、つまり退屈だと思う現状と比較する「退屈でない何か」があると言う事になる。
 それが一体何なのか、俺は聞いてみたくなった。
「んー……もしそうなったら、一つしてみたい事があるの」
 してみたい事?
「ええ、わたしの知る、宇宙で一番楽しい事。でも何かはナイショよ」
 そうか。お前にもあるんだな、そんな事が。
 その言葉を聞いて、俺は先ほど思いついた突拍子も無い『こういう事』を打ち明けてみた。


「俺の能力、情報統合思念体、インターフェース。俺よりも宇宙的な事に詳しいだろうお前らに尋ねるんだが。
 つまりこの問題って『朝倉の操り主が情報統合思念体の急進派』なのが問題なんだよな。
 だったら……『朝倉の操り主を俺にする』なんて事は可能だと思うか?」

 流石にこんな事を言い出すとは思っていなかったらしい。朝倉も長門も言葉をなくしていた。
 いや長門は普段から言葉が無いが、それでも普段より眼を少しだけ見開いたその表情を見れば驚いているのがわかる。

「思念体が生み出したわたしのプロテクトを破って、アドミンネーム……つまり操り主をあなたに変更して、更に思念体が解除できないぐらい強力な情報保護プロテクトを掛け直せば、一応可能かな。うん」
 勤めて明るく朝倉が教えてくれた。
 なるほど、つまり不可能ではないんだな。
「……ねえ。まさか本気だなんて事、ないよね?」
 流石に雰囲気がわかったのか、朝倉が笑顔を落とし真剣な表情で聞いてくる。
 どうもさっきの案はインターフェースなりの冗談だったらしい。
 長門もまたいつに無く厳しい表情でこちらを見ていた。
「成功確率は極めて低い。最悪ケースを想定した場合、朝倉涼子のデータ改変中にマスターから逆改変を行われる可能性がある」
 だったらそうされないよう、成功率を上げる方法を考えようじゃないか。
 幸いここには思念体と張れる存在が三人もいるんだからな。

「わたしはただの人間。現地協力者にすぎない」
 ……それが今のところ一番謎なんだよ。
 知識といい体術といい、悪いが俺なんかよりよっぽどインターフェースっぽいぞ、長門。
 って言うか宇宙人より面白い立場にいるんじゃないか?
「それは、気のせい」


- * -
「朝倉涼子を心身共に消耗させ抵抗力を落とす。その上であなたの攻撃因子を朝倉涼子に注入し、改変を行う。
 これが合理的、かつ最善の手段と思われる」
 なるほど、それは合理的だ。
 それで具体的にはどうすればいい。何せ宇宙人の力に目覚めて日が浅くてな。
 何をどうしたらいいのかさっぱりなんだ。教えてくれないか長門。
 お前がどうして布団を引き始めたのかを含めてな。

「わたしの事をどういう風に改変させたいか、その結果を思念して。
 それで、あなたの存在全てが改変攻撃因子に変化するの。思念幅が広域であればあるだけ、そうね、人間の感覚で言うなら『強く』思念すればするほど、より強力な攻撃因子が構成されるわ。
 後はその攻撃因子をわたしに注入するだけね」
 なるほど、かなり具体的だ。
 それで具体的にはどうすればいい。何せ宇宙人の力に目覚めて日が浅くてな。
 何をどうしたらいいのかさっぱりなんだ。教えてくれないか朝倉。
 お前がどうして制服を脱ぎ始めたのかを含めてな。

「わたしが朝倉涼子を消耗させる。その後皮膚や血液、粘膜へ因子を接触させ、全身に吸収させるのが最も効率的。
 あなたの全身から出る汗を朝倉涼子に触れさせるのも攻撃手段の一つ。
 またあなたの唾液を飲ませる、体液を注入させる行為も攻撃手段となる」

 ……はっはっはっ。なるほど、そういう展開か。
 悪いな谷口、国木田。どうやら俺は朝倉と一足先に大人の階段を登ることになりそうだ。
 恨むなら朝倉にこんな命令をした情報統合思念体の急進派を恨んでくれ。


- * -
「きゃふ、ふぁ、ぁ、ぁああああああーーーーーーーーっ!!」
 朝倉の艶を大いに含んだ咆哮を受けて思考を戻す。
 全身に珠玉のように輝く汗をかき、涙や涎やその他諸々を分泌しながら、激しく呼吸する以外の動きを見せなくなった。
 こうして見ていると、インターフェースというのがウソに思えてくる。
「……いぇ……っさぁ、ぁ……れ」
 息なのか言葉なのかわからないメゾソプラノの音を出す朝倉を見つめ、長門はゆっくりと朝倉から離れてこちらに視線を送った。
「準備完了」
 ……そうか。ありがとうよ、その淡々とした態度に少し萎えたが、逆に冷静になれたぜ。
 さて、ここからが真剣勝負だな。あらゆる意味でチェリーな俺がどこまでできるのか。それに朝倉の今後がかかっている。
 一糸纏わぬ姿の俺は、一糸纏わぬ姿の朝倉にゆっくりと近づいて……
 と。あくまで単調の雰囲気を崩さず、朝倉の艶美な芳香を纏ったまま、長門がすっと近づいてきた。
 ちなみにコイツはタイ一つすら乱れていない完璧な制服姿である。なんだかなぁ。

「萎えるのは問題。早急に起たせる必要がある」
 そう言うなり俺の前に跪き、主に朝倉の甘露で濡れた両手を俺のいきり立つ注射器に添えてきた。
「吸茎と手淫を施す」

 その後じっとりねっとりしっぽりすっかりたっぷりのんびり長門に攻め立てられまくり、大人の階段を昇るどころか何かとんでもない精神的外傷を俺の心に刻み込みながらある種の抜け出せない深みに堕ちていく気分になったのはどうか気のせいだと信じたい。

「準備完了。ターゲット朝倉涼子の管理構成プログラムへの改変ウィルスを速やかに挿入」
 色んな尊厳を失くした気分になり泣きたい気分だがとりあえずギリギリのところで堪える。
 で、つまり挿入ってのは、それはその、アレをしろって事だよな。
「そう。あなたのそのたぎる陰け」
 あ、いや語らなくていい。言いたい事は痛いほどわかるから。
「そう」
 長門はあくまで表情を崩さず、首を数ミリほど横に傾け大丈夫?といった感じで伺ってきた。
 大丈夫だ、多分。

 しかしこんな事になろうとはね。SOS団の三人が揃ってハルヒがどうのと言った時には、てっきりこの誰が望んだかわからない微妙に非日常系な物語は、ハルヒをヒロインにあいつの心の憂いと鬱憤を取り除くという、そうだな「涼宮ハルヒの憂鬱」なんてちょっと投げやりなタイトルが意外にマッチするような話だと思っていたのだが、まさか朝倉がヒロインで「朝倉涼子の解放」という物語になろうとは、いったい長門以外の誰が気づけようってもんだ。


- * -
「朝倉、最後にもう一度だけ聞きたい。……本当に、その、しちゃっていいんだな?」
 既に精も魂も尽きかけぐったりとしている朝倉の傍により、視界に入るよう覗き込んで問いかける。
 ヘタレと呼ぶなら呼べ。引き返せない第一歩を躊躇い無く踏み出せるなら、今頃俺は経験豊富な色男にでもなってるさ。
 朝倉は部屋の天井を彷徨わせていた視線をぼんやりと俺に移し、その霞んでいる思考を何とか巡らせて答えてきた。
「……うん、お願い。この退屈な日常を終わらせられるチャンスがあるんなら、わたしはそれにかける。
 …………それにね」
 それに、何だ?
 息も絶え絶えに、隠す意思も無い形の良い艶やかな胸を上下させながら、朝倉が手をのばして俺を捕まえてくる。
「……もう、限界なの。思考が狂って、エラーが起きてる……。早く……何とか、してっ!」
 思いもがけない強い力で一気に俺を引き寄せる。バランスを崩して倒れこむと、朝倉はそんな俺をしっかりと抱きしめてきた。

「はうあああああっっ!」
 直後に朝倉が白桃色の声で叫びだす。なんだ、どこかに当たったか?
「違う。あなたの全身にかく汗もウィルスの一環。朝倉涼子はあなたに侵食され始めた」
 淡々とした解説が流れてくる。ところで長門、お前ずっとそこで見ているつもりか?
「わたしはあなたをサポートする義務がある。あなたが失敗しないように」
 あり難いんだか下手くそそうで心配だといわれてるのかわからないが、恥ずかしい事にはかわりなかった。
「それと興味もある。わたしが同じ状況に陥ったとき、大いに参考にさせてもらう」
 どんな状況だソレは。俺の問いにきっかり三秒待って
「……初体験の時」
 頬に僅かな朱をのせて、長門は小さく呟いた。

- * -
 朝倉は俺を抱きしめながら、それだけで身体を小刻みに震わせている。
 だがいつまでも俺のボディプレスを続けさせるわけにも行かないだろう。自分の下から横へとその身体をずらす。
 そのまま抱きしめ返しながら軽く口づけ、そのまま舌で紅を叩いて開かせる。
 舌を口内に差し込むと、朝倉は更に震えを増しながら、俺の舌と唾液を舐め取るように絡めてきた。

 俺の体液全てがウィルスだったか。摂取量が多ければ多いほど改変効果が期待できる。
 何て夢の様でいて恐ろしい設定だ。朝倉が俺の血液を全て吸い取るとか始めなかっただけ良しとしよう。
「そんな……事、しないわよ。何となくだけど、あなたなら、何とかしてくれそうだから」
 もの凄く恥ずかしい事を言われてしまい、照れ隠しに俺は朝倉の口内から耳タブを経由して首筋へと舌を動かした。
 鎖骨のくぼみがどうやら朝倉のお気に入りらしい。甘噛みで鎖骨を咥えたり、舌でそっとなぞったりするたびに、朝倉は振動モードをオンにされたゲームコントローラーよろしく震え上がる。

「くきゅんっ! も、もうだめ……満たされないの、思考が繋がらないのっ! なんなのこれ……おかし、くなる」
 頭を振って未知の感覚に戸惑う。どうにか認識しようとするが、適切な言葉を見つけられないようだ。
「それは多分、『切ない』という感情」
「切ない……うん、そう。切ない……切ない、切ないな……切ないの……切な、い」
 潤んだ瞳で見つめられ、桜色に染まった身体でそう言われて、それで我慢できるヤツは以下略だ。
 既に長門によって決壊したダムのような状態なっているそこへ、俺の愚息をあてがう。

「朝倉、お前は力が使えないんだ。だから、痛かったらちゃんと言ってくれ」
「うん。でも、わたしでも痛いのかな……わかんない……こーいうの、全然した事ないから……必要なかったから……」
 そうか。
「うん。でもね、優しくする必要も、そんな気遣いもいらない。……あなたは、ただ一つの事だけを、ずっと考えててね」
 不意の言葉に驚くが、俺を掴む朝倉の手が小さく、でも強く俺の事を引き寄せてくる。

「わたしを侵して……あなたの全てで、わたしの事を繋ぎとめて。…………お願い、いいよね」
 俺は頷くと、ゆっくりと朝倉にその身を沈めていった。


- * -
 思ったより痛くないのか、それとも朝倉なりの頑張りなのか、はたまた改変中でそれどころでは無いのか。
「はあん、うっ、くううんっ! もっと、足りないのおっ! 何か熱い力が、全身で暴れてるのおっ!」
 リズム的な動きにあわせ、リズム的に言葉を返してくる。
 汗でにじんだ手を胸に触れさせるだけで、その激しさが更にはじける。深く舌を絡ませるだけで、その体温が更に上昇する。
「ああっ、それ、いいっ! 何かが染みてくるみたいっ!」
 今はただ朝倉の事だけを考える。というかそれ以外考えられない。
 朝倉の舌が顔や首や胸板などを這いまわり、その軟らかくほんのり温かい身体は密着し、全身からは熱く甘い匂いを振りまき、何より俺の愚息が朝倉の中で表現不能の動きに包み込まれている。

 キスをするたび、何処かに触れるたび、そして少しずつ漏らすたびに、朝倉の改変が行われていく。
 改変を阻む激しい拒絶の壁。その合間を縫って、俺の事を小さく受け入れ続ける。
 幾重の壁を地道に破り、ついに俺の思念は朝倉の中心に指をかけた。
「凄い……これって何なの!? わたしの中の情報が連動する、連鎖していくっ! 暖かい何かで侵略されてるのッ!」
 朝倉が強く抱きしめてくる。背中に爪が立てられるが、そんな痛みは完全に無視した。
「切れそう……消えそう……消えたくないよ……こんな退屈なら消えたいって、思ってたのに……今は消えたくない。
 もっと抱かれてたい、もっとこうしてたい、もっと色々してみたいのっ! もっと、もっと、もっともっともっと」
 限界が近い。俺の欲求も、体力も、そして朝倉の思考も。動きを早く、そして深くして、朝倉を攻め立てた。
「あ、もう、切れて、繋が、あ、あああぁ────────────────────っ!!」
 その腕が、そして朝倉自身が俺を一際強く包み締め付ける。
 それにあわせて俺も朝倉の奥深くでウィルスをぶちまけ、同時に朝倉の中心をしっかり掴みとった。


- * -
「……さっきから変なの。吹いたら飛んでいっちゃうような、小さく軽い羽毛が、こう、身体の中にたくさん積もってきて、重く感じるんだけど、でもそれが何だか心地良くって、大切にしたい……そんな感じ。ねぇ……これって、何なのかな」
 隣で横になっている朝倉が聞いてくる。改変が成功したのかわからなかったが、その表情は極めて優しかった。

「さぁな。でも、大切にしたいって思うんだったら、大切にしたらどうだ」
「そうね。そうする」
 そうしてゆっくりと目を閉じる。少しして、小さな寝息が聞こえてきた。

「……わたしにはわかる」
 どこからか小さな声が響く。
 少なくとも俺の視界範囲に姿は見えないが、部屋の隅で途中からずっと正座していただろう、長門の声だった。
「朝倉涼子は涼宮ハルヒとコンタクトを取る為、クラスに溶け込むよう人付き合いの良い性格をしていた。
 だがそれは全て誰かがパターンとして作りあげたモノ。彼女自身のモノではない。
 しかし、涼宮ハルヒのある一言が、朝倉涼子に『自分で考える』という行為を思いつかせた」
 お前が何でその事を知ってるのかはわからんが、その一言って『無かったら作ればいいのよ』ってアレだよな。
「そう。そして朝倉涼子は次々と『自分で考えた』。次々と思いついた。それが、彼女の言う『羽毛』」
 ああ、そんなの俺にもわかってたさ。
 でも朝倉が自分でその事に気づいた方が良いと思ったんだ。だから言わなかった。

「それがいい」
 長門は静かに肯定してきた。少しの物音と襖を開ける音がする。
「その布団に三人は多い。わたしは向こうで眠る」
 何から何まで本当に悪かったな、長門。
「いい」
 ゆっくりと襖が閉められる。隙間無く閉じられ部屋が闇に戻ったとき、襖の向こうから言葉が続いた。


「──それに、わたしも堪能した」

 ……何だか色々と眠れない気分に陥った。


- * -
 事の顛末を二つ語ろう。
 まずは改変の結果だが、これは見事に成功したらしい。

「マスター、ご主人様、ボス、主、お義父さん……どれがいいかな」
 何の話だ。
「だってあなたがわたしのマスターなんだもの。あなたが望むよう呼んであげるわよ」
 今までどおりにしろ。頼むから俺をマスターと思うならこれ以上悩みの種を増やさないでくれ。
 ……まあ、この三人しかいない時には好きに呼んでもらって構わないがな。
 それこそお前が『自由』に決めるべき事だ。
「うん、そうする」


 そしてもう一つの顛末だが……。


「涼宮さん、ちょっといいかな」
 次の日の朝。
 全く持って不思議が見つからず、登校するなり机に突っ伏し不機嫌オーラを振りまくハルヒに対し、何を思ったのか朝倉はコンタクトを試みてきた。本当に何を考えてるんだ、おい。
 思ったとおりハルヒは一言も答えない。振り向きもしない。だが朝倉は気にも留めずに話を続けた。

「わたしもSOS団に入部させてほしいの」
 ……何だって? 今コイツ何て言いやがった?
 俺が朝倉の言葉を理解できずにいると、ハルヒは相変わらず突っ伏したまま
「志望動機」
 本当驚いたね、そう一言だけ呟いて返した。
 てっきり無視を決め込むと思っていたのだが、お前ら揃って一体どういう心境の変化があったんだ。

「退屈だから」
「ふぅん、そう」
 かつてこんな殺伐とした入部申請風景があっただろうか。
 少なくとも俺は知らない。制服を掴まれて部室へ強制連行された記憶ならあるけどな。

「……放課後に文芸部よ」
「うん、ありがと」
 もはや天変地異の驚愕だ。ハルヒは朝倉の入団をあっさりと許可したのだった。
 突っ伏したままの姿は変わらないが、そっぽを向いていたのが今は俺と朝倉に視線を投げてきている。
「何? なんか文句あるの?」
 いいや、全く無い。大岡裁き以上の名判決だと掛け値なしで褒めてやりたいぐらいだ。
「ふん。退屈してんなら、不思議探しの人海戦術に丁度いいと思っただけよ」

 朝倉はハルヒの横から俺の横に移動し席の傍にしゃがみ込む。
 両手を組みながら立てひじを付き、憂鬱の取れた瞳をこちらへ向けてきた。
「そういう訳で、これからよろしくね。マスター」
 マスター言うな。それよりお前が言ってた宇宙で一番楽しい事って、SOS団の事だったのか。
「そうよ。だってさ」
 朝倉は軽く首をかしげ、いつもより半音ほど高い声で言葉を続けた。

「SOS団より楽しい事、あなたにある?」
 そんな朝倉の屈託の無い笑顔と入団を許したハルヒの寛大なる心に免じて、俺は何も答えなかった。


- * -
・未来人編

 朝倉涼子。谷口曰くランクAAの超美少女。
 俺やハルヒのクラスメートにして学級委員。成績優秀、運動抜群、特技は料理とナイフ使い。
 宇宙人に作られたインターフェースであり、最近操り主が俺になった。
 そんなでたらめが並ぶプロフィールに、さらに一つ追加される事になった。それは、

「そんな訳で、不思議探索失敗という不穏な風を吹き払う為のニューフェイスよっ!」
「朝倉涼子です、よろしく」
 栄えある『SOS団団員その5』という肩書きであった。


- * -
 さて、朝倉が電撃入団した翌日。俺の下駄箱には可愛らしい手紙が入っていた。
 差出人は朝比奈さんである。
「お昼休みに部室まで来てください」
 俺は手紙に書かれるまま、昼休みにスキップする足すら地に着かない状態で部室を訪れた。

 そして扉を開けると、
「よう。ご機嫌だな、俺。こうして第三者的に観察すると頭悪く見えるぞ」
 そこには俺の湯飲みを使いお茶をすする、ちょっと大人びた俺が待っていた。


「えっと。こちらは二年後のキョンさんです」
 昼休みだというのに律儀にメイド服に着替えた朝比奈さんに紹介された、自称未来の俺が手を振ってくる。
 それにしても俺と良く似ている。生き別れのお兄さんか誰かでしょうか。

「まあ普通は信じないよな。俺だって信じられなかった。でも信じてもらわなきゃ話が進まん。
 仕方ないから、お前の部屋のお宝保管場所からパソコンに残しているゲームのセーブポイント箇所、あのSOS団パソコンに眠る某フォルダの事、それに一昨日長門の家で行われた朝倉涼子の勧誘劇までお前が信じてくれるまで全部赤裸々に語っていく事にしよう」
 一瞬だけ朝比奈さんに視線を飛ばして未来の俺が言ってくる。朝比奈さんは何の事だかわからずきょとんとしながらも
「えっと、朝倉さんって涼宮さんじゃなくてキョンくんが勧誘したんですか?」
などと一番触れられたくない部分に興味を示し始めていた。
 悪かった。お前は俺で間違いない。急所を一突きとはこの事だ。
 だからそういう事で俺だと理解させるのはやめろ。同じ俺なら男のロマンには不可侵条約が張られている事を思い出せ。
 がっくりとうなだれながら、俺は目の前の俺を全肯定した。


 俺が席に着き弁当を広げると、朝比奈さんがいつもと変わらぬ至福のお茶を淹れてくれた。
 そして自分の分を隣の席に置くと脇に寄せていた小さなお弁当を持って俺の隣に座ってくる。
「そういえば、こうやってキョンくんと食べるのって初めてですね」
 全くです。空腹は最高の調味料と言うがそれは間違いだ。最高の調味料がこうして目の前で微笑んでいらっしゃるのだから。
 これだけで弁当三つは軽くいただけるね。
「わぁ、キョンくんのお弁当って家庭的ですね」
 主に昨日の晩飯の残り物にプラスαしたものだから当然と言えば当然だ。
「食べてみます? いわゆるお袋の味なんで美味いかどうかは保障しませんけど」
 まあつい最近目の前の天使さまに実親である事を否定されたばかりだが。
「いいんですか? わぁ、それじゃお言葉に甘えていただいちゃいますね」
 そう言って朝比奈さんは俺の弁当箱からおかずを二つ三つ持っていった。
 そして今度は自分のお弁当のおかずを何個か弁当箱のフタにのせるとにっこり笑ってこちらに差し出してくる。
「はい、キョンくん。わたしからもお返しです。上手にできてるか、ちょっと不安ですけど」
 ありがとうございます朝比奈さん。あなたが作ったというだけで弁当八個は軽くいただけますよ。
「えへへ……いいですね、こういうの」
 全くです。それは俺にとってSOS団に入って初めて幸せと言うものを感じた瞬間だった。


「……あー、現代の俺よ。俺に嫉妬で呪い殺されたくなかったらそろそろ本題に入らせてくれないだろうか」
 全く、これで目の前の未来の俺がいなければ最高の時だったんだがな。


- * -
 未来の俺は懐から一冊のマンガを取り出すと、俺に渡してきた。
 青い猫型ロボットがダメなメガネ少年を一人前にするあの有名なマンガだ。

「その猫型ロボットの話の一つに、こんなのがあるのを知ってるか?
 ある日ダメ少年に宿題をまかされたロボット。だがその宿題の量と残り時間に一人じゃ無理だと考えた。
 最低でも五人は必要となる計算だ。そこでロボットは未来から自分を援軍として呼ぶ事にした。
 これで自分が五人になる、そう考えたんだ。

 ……しかし、それが間違いの始まりだった。
 確かに名案だった。宿題はあっさり完成した。だがそのロボットはそれが何を意味するか思い至らなかったんだ。
 そのロボットはそれ以降二時間おきに四回も過去から呼び出しをくらい、寝る間も惜しんで宿題をしなければならなくなったんだ。
 そうしないと時間的矛盾が起こり、最初の宿題が完成しなくなるからだ。
 つまりロボットが五回宿題をするのは『規定事項』となった、そういう訳だ」

 言いたい事は何となくわかる。タイムマシンを使った物語ならありがちな話だ。
 だが何で未来の俺がわざわざそんな事を話しだしたのかはわからなかった。

「何、いずれわかる。俺も二年前に同じ事を言われ、そしていずれ思い知ったからな」
 食後のお茶を飲む俺に対し、未来の俺はとことん疲れきったような表情を浮かべながら返してきた。


「それとこれも規定事項なんで伝えておく。お前がいま抱えている最大の疑問についてだ。
 俺、つまりお前が何故『未来から来た超能力を持つインターフェース』だなんて謎の属性を持っているのか。
 そして何故お前自身にその記憶がないのか。それについてなんだが……」

 未来の俺は目頭を押さえ涙をこらえるポーズをとる。何だ何だ、そんなに悲しいエピソードがあったのか?
 俺はようやくお弁当を食べ終えお茶を飲む朝比奈さんと目を合わせると、二人して俺の言葉を待った。

「それな……正直俺にもわからん。少なくとも二年後までには一ミリ程度も解決しない。だから気にするな」
 そう真顔で慰められてしまった。ある意味何よりも悲しいエピソードである。
 横を見れば朝比奈さんも、何だかコーヒーの入ってないマリームを飲まされているような表情を浮かべていた。
 味の無い話とはまさにこの事か。せめてクリープぐらいの甘さは欲しかった気がした。


「さて、それじゃ俺は帰らせてもらうわ。あんまりここにいてもアレなんでな」
 アレがどれを指しているのか全くわからん上に、コイツが来て解決した事が何一つ無いというこの現実。
 結局マンガを持ってきただけのコイツの事を一発ぐらいを殴り倒したとして、一体誰が俺の事を責め立てられようか。
「殴ってもいいが二年後に殴られるのはお前だぞ」
 そう言われると躊躇してしまう。誰だって殴られたくはないものだ。
 行き場の無い感情に俺が鎮痛の表情を浮かべている間に、未来の俺は部室の扉を開けて立ち去ろうとしていた。

 だが一瞬だけ足を止めると、ここでようやく未来人らしげなアドバイスのような事を告げてきた。
「そうだ、最後に一つだけ言っておく。……その時が来たら決して『躊躇うな』。お前の『全力』で対応するんだ」
 俺が何の事かと理解している間に、未来の俺は視線を俺から朝比奈さんへと移す。
「それと朝比奈さん」
 そして一度だけゆっくりと瞬きをすると

「お茶、ご馳走様でした。とても美味しかったですよ」
 いいからもう帰れ。俺はそいつを追い出すとさっさと扉を閉じた。


- * -
・超能力者+α編

「──《神人》。涼宮さんの世界への不満の現われ、退屈な日常の破壊を司る影」
 閉鎖空間に古泉のあくまで静かな声が響く。ただ普通に話しているだけなのだろうが、その声は俺たちに十分届いていた。
「涼宮さんのストレスによって生み出される、現世の破壊神」
「格好つけた御託はいい。それで、この力で本当に倒せるんだな?」
 全身に紅い光を纏い、俺は空を駆りながら《神人》へと向かっていた。
「ええ、僕の全てを以って保障します。あの神を倒せるのは、あなただけが持つその紅い力のみです」
 何で俺しか持ってない力で倒せるのが保障できるんだろうね。お前もそう思わないか。
 俺は隣で空を併走する北高の制服を着た長髪の美少女──ぶっちゃけ朝倉だが──に尋ねた。

「本当、どうしてかな。とりあえず試してみるわね」
 そう言うと朝倉は車道に降り立ち、両手を巨大な光の刃に変化させる。
 地面すれすれをなぎ払い、辺りの街灯を片っ端から切り倒しつつ『呪文』を唱えて情報操作を加える。
「行って」
 小さな掛け声にあわせ、街灯が次々とロケット花火のように《神人》に向かって飛んでいった。
 更に朝倉自身もその飛ばした街灯を次々と渡って《神人》へと近づいていく。お前は何処の暗殺者だ。
 結局数十発の街灯ミサイルも、その後の朝倉の両手を触手に変えた驚異的な突貫攻撃も、《神人》には全く効かなかった。

 仕方なく俺は最初に古泉から言われたように、自分の紅い力を朝倉に送り込むイメージを思い浮かべた。
 朝倉の両腕が今の俺と同じようにだんだんと紅く輝いてくる。

「不思議な力ね……何だか冷徹で、全てを拒絶しているって感じかな」
 呟きながら前髪を十本程度むしり、紅い力を髪の毛に流し込むと空中に撒く。
 再び『呪文』を放つと髪の毛は赤い光を纏ったまま、その一本一本が全てアーミーナイフへと形をかえた。
 空中で勝手に狙いを定めると、朝倉の号令で《神人》の太もも目掛けて全てのナイフが飛んでいく。
 《神人》へと吸い込まれるように消えていき、《神人》の太ももが深紅の閃光と爆発を起こして吹き飛んだ。

「どいてろ、後は俺がっ!」
 朝倉が離れたのを確認し、俺は速度を増して《神人》の胸元へと突撃、一瞬にしてその身体を貫いた。
 そのまま頭の頂点に移動し、一気に股下までもう一度貫いて通る。
 勢いあまって地面に突撃かけそうになった時、真横から朝倉がもの凄い速度で走りより俺をひっ捕まえるとそのままの勢いで《神人》から一気に離脱した。

 足をもがれ、真っ二つとなった《神人》が街中へと崩れ落ちていく。
 空へと手を伸ばすが、それもすぐに光の砂塵と化していった。

 俺の人生初の《神人》戦は、どうやら勝利を迎えたようだ。

- * -
「いや、これ以上無いぐらい素晴らしい戦いでした」
 俺を閉鎖空間が開くこの場所へ連れてきた『だけ』の古泉は、惜しみない拍手と共に俺たちを迎えてきた。


 閉鎖空間が発生する場所は『機関』でも押さえられるらしい。だが、その中へと突入するのは俺の力だ。
 目をつぶって手を差し出す古泉を目にし、このまま放置して帰ってやろうかと思いもした。
 実際二歩ほど後ずさった。
 だが、世界崩壊の危機だなんだと言われたら少しぐらい覗いてみたくなるのが男ってもんだろ。
 仕方無しに俺は古泉を連れて閉鎖空間へと突入したのだった。

 ちなみに朝倉は俺の力を借りる事で自分だけでこの閉鎖空間に入ってこられるらしく、
「もう、遅いよ。涼宮さん風に言うなら罰金かな」
 と既に閉鎖空間で待っていた。
 そして、相変わらずのトンデモ説明と実体験を経て今に至る、と。


「どうですか、お茶でも。お疲れになると思い、冷たいハーブティを淹れてきたんですよ」
 俺と朝倉はコップを受け取りお茶を飲む。うん、やはり朝比奈さんには遠く及ばないな。
「そうですか。……始まります、空を」
 古泉が空を指し示すと同時に灰色の空間にヒビが入る。
「閉鎖空間の終焉です。ちょっとしたスペクタクルですよ」
 言葉に合わせてドーム状の世界が崩壊し、灰色の空間の裏から色彩豊かな空間が顔をのぞかせ始めた。

「ありがとうございました。あなたのおかげで、涼宮さんのストレスはまた一つ発散されました」
 ストレスねぇ。つまりハルヒを退屈させたり怒らせたりしたらコレが起こるって事か。
「そうです。そしていつかは世界が入れ替わる……かもしれません」
 そんな言葉を聞きながら、俺は崩れ行く閉鎖空間を見つつ古泉謹製のまずいお茶をすすっていた。

「……今度、朝比奈さんにお茶の淹れ方を教わる事にします」
「なら次はわたしが淹れてくるわね」
 どっちも好きにしろよ。

- * -
 他称グレートマジンガー。他称ジェッターマルス。他称バビル2世。
 何だかもーどうにでもして~といいたい他称ばかりが増えていく。本当どうしたらいいんだこれ。

 俺は前を行くハルヒをぼんやり眺めつつそんな事を考えていた。ところで俺は何でハルヒと帰ってるんだろうね。
 答えは簡単、それこそ残り四人の陰謀だからだ。


「あんたさ、自分がこの地球でどれだけちっぽけな存在なのか自覚したことある?」
 ハルヒが突然切り出した。というか何の話だ。
「あたしはある。忘れもしない、小学生の六年生の時……」
 たまには突っ込みに答えろという俺の突っ込みすら完全に無視し、ハルヒは語り始めた。

「家族みんなでコミケに行ったのよ」
 行くな。わずか十秒でしんみりとした空気が台無しになった。
「あたしは同人誌なんかには興味無かったんだけど、会場に着いて驚いた。見渡す限り人だらけなのよ」
 まあそういう場所だしな。
「会場中に黒ゴマみたいな人間の頭がびっしり蠢いてるの」
 暫く黒ゴマが食えそうになくなった。
「日本の人間が残らずこの空間に集まってんじゃないかって思った」
 それはある意味間違ってない。あそこにはある種の人間が日本中から集まっている。
「親父に聞いてみたの。ここにはいったいどれだけの人がいるんだって。
 ざっと見て今日は十万ぐらいかなって親父は答えた」
 三日開催すれば二、三十万だ。どうにかならないのかね、あの動員数は。

「あたしはそんな会場のちっぽけな一人で、その会場中の人も実は総人口の一つかみでしかない。
 それなのに、何だか奇妙奇天烈な宇宙人、未来人、超能力者もびっくりな連中が粒ぞろい」
 とりあえずお前がいったい会場の何処で何を見てきたのか知りたくなってきたぞ。
「それまであたしは自分がどこか特別な人間なんだと思ってた」
 間違いなく特別だ。その思考なんか特別すぎて誰もついてきてない。
「家族もクラスも、世界で一番面白い人間が揃ってるんだって思ってた。でも違った。
 世界で一番楽しいと思ってたクラスの出来事も、あの混沌に比べたらなんて事は無い普通の出来事だった」
 そりゃ比べる相手が悪い。どれが大きい秋刀魚かと聞いているのに、ナウマンゾウを指してるようなものだ。

「そして気づいたの。世の中こんなに人がいるのなら、どこかにあたしよりすっと普通じゃなく面白い人生を送っている人間がいるはずだって」
 いるのは確かだ。だがそいつらはその楽しい分大切な何かを確実に削っているぞ。
 例えば社交性が少ないとか、突然胸をもまれる人生だとか、常に笑顔でイエスマンであるとか、突然殺人鬼になるとか。
「そして思いついた。楽しい事は待ってるだけじゃやってこないんだって」
 同人作家を目指そうと言い出さなかっただけ褒めてやりたいが、生産性が限りなく乏しい団の団長とどっちが社会の役に立っているのかと考えると、ハルヒの事を手放しで褒める事ができない気がするのは気のせいか。
「実際あたしなりにいろいろやってみた。でもダメ。……そうしてあたしは高校生になった」

 なるほど。あの行動派オタクたちを越える面白パワーが欲しくて「宇宙人×未来人×超能力者」の三倍満だったわけか。
 とりあえずお前の親父さんに会わせてくれ。そして俺が受けたしわ寄せの分、一発ぐらい殴らせろ。
 家族でいくならおとなしく吉野家とかにしておけよと俺は声を大にして言いたい。


- * -
「お帰り、お疲れさま」
 家に帰ったら朝倉がいた。どういうエロゲー的展開だこれは。何なら雪の日にベンチで寝転がるぞ?
「情報統合思念体の管轄から外れたでしょ。そうしたら寮を追い出されちゃって」
 あのマンションってインターフェースの寮だったのかよ!?
 何でそんな微妙に庶民的なんだよ情報統合思念体。つーかあのマンション長門が住んで無かったか?
「長門さんはサポーターだから」
 なら一緒に住めばいいだろ。さいわい長門はモノを持たない人間、いまならどんな家具でも置き放題だ。

「……四六時中ポーカーフェイスの同居人が観察日記持って見つめてくる家で、あなた普通に住める?」
 悪かった。そりゃ確かに無理だ。

「だからここに住む事にしたの。朝比奈さんたちからの許可は下りてるわ」
 あー、そういえば俺の家族って朝比奈さんの派閥が用意したとか言ってましたっけ。
 あまりに最近色々な事があってすっかり忘れていた。

「やった~お姉ちゃんがふえたよ~。きれいなお姉ちゃんでよかったねぇキョンくん」
 よかったぞ妹よ。ところでお前の本当のお姉さんについて、後でじっくり聞かせてくれないか。
「みくるちゃんのこと? だめ~、それきんそくじこ~」
 それだけ言うと妹は笑いながら階段を登って部屋へ逃げ込まれてしまった。

「そういう訳だから、よろしくね」
 いくらなんでも自由すぎるだろ、この展開は。
 こうなったら誰でもいい。代価は払うから、俺に安息の地を与えてくれ。
 俺は天におわす様々な神様仏様(ハルヒ神は除く)に、思いつく限りの祈祷を行っていた。



「おかわりいる?」
「背中、流してあげようか」
「まだ布団とか用意できてなくって。ねえ、一緒に寝ていいかな」



 ……俺の理性が持っている間に、早いトコ頼む。



- * -
・ハルヒ編

「キョンくん、あっさだよー!」
 ベッドの中でぬくぬくと永遠の常春王国を構築していた俺に対し、そんな甘ったるい声と共に突然重みがのしかかる。
 しかし毎日毎日同じようにどすどす乗っかられていた為、今ではボクサー並に鍛え上げられた俺のマッスル腹筋はその程度の重さではびくともしないようになっていた。いくら妹が飛び跳ねようとも無駄な事だ。

「ウ~ッ、リョンちゃんお願~い!」
「うん。……えいっ」
 可愛らしい言葉とは裏腹に先ほどの倍以上の重みがのしかかり、俺の永遠の常春王国はあっさり瓦解した。
「ぐぶほぉっ! な、何だあっ!?」
 布団から顔を出し重さの元を見ると、いつも通りの妹とシャミセンに加え朝倉までが乗っかっている。
 そりゃいくらなんでも重量オーバーだろ。悪いが俺の積載量はそんなに多くない。
「あら、失礼ね。そんなに重くは無いと思うんだけどな」
 そう言いながら朝倉は妹と共に身体をゆすってくる。重、重、重、重、重、重、げふっ。
 はい降参します、白旗あげます、素直に起きます、永遠の常春王国はここに無条件開国宣言を致します。
 だから俺の上からどいてください。いやマジで。

「やった~。キョンくんおきたよ~」
 妹が飛び降り、下で準備する母親に向かって叫びながら部屋を出て行く。
 朝倉も俺から降りると、しわの入りかけた制服のスカートを軽く伸ばして整えなおす。
 やがて満足するとこちらを振り向き、何がそんなに楽しいんだか屈託のない笑顔で聞いてきた。
「どう、しっかり目覚めた?」
 あぁおかげ様でなコンチクショウ。もう少しで色々なものが飛び出るところだったぞ。
 いくら一人一人はそれなりでも、二人と一匹合わせればかなりの重さになる事を理解してくれ。
 今夜お前らには毛利元就の三本の矢のエピソードを教えてやるから、正座してしっかり聞くように。
「それってアレよね。一本のナイフでは折れるけど、三本のナイフなら折れないっていう」
 ナイフ一本でも十分折れねえよ。つーかお前の単位は全部ナイフなのか。
 俺は今すぐ青い鳥捜索の旅に出発したくなった。


- * -
 教室に入るとハルヒの不機嫌オーラが俺の事を出迎えてくれた。
「……あえて聞くが、どうした。そんな暗黒面を身体中からかもし出して」
「あえて聞くな」
 取り付く島なしか。そんなに日常がつまらないのかね。
 俺なんてこの一週間で生活環境から人生観まで、今まで歩んできた平々凡々な人生が既に遠い過去に思えるぐらい大幅に変わっているのだが、もしよかったら俺と人生代わってくれないだろうか?
「お断りよ。あんたの人生なんて、あたし以上に退屈でつまらなそうだわ」
 あっさりと断られてしまった。せめて朝倉ぐらい引き取ってもらいたかったのだがな。
「何言ってんの。唯一の身寄りとして遠縁で頼られてるんだから、ちゃんと大切にしてあげなさい」
 ……既に情報操作済みかよ。全く誰の陰謀なんだろうね、これは。

「あぁ、それとこれだけは言っておくわ。いくらあんたが心身共に健康で、そんな健全たる思春期を送る男子にとって至極当然のように湧いてくるであろう人間の三大欲求に駆り立てられたとしても、涼子は今やSOS団の団員。
 ……手を出したら当然死刑だからね」
 どうやら面白属性に面白同居人のうえ、いつの間にやら死亡フラグまで立っているらしい。

 なぁ、誰か本当に代わってくれないか?
 今なら俺の面白三大属性に何と朝倉と妹もつけて、赤字覚悟なこのお値段で進呈しよう。
 俺は窓の外を見ながら、和やかに登校してくる生徒諸君に向けて溜息と共に呟いた。


- * -
 昼休み。俺は朝比奈さんに呼ばれ、SOS団が今なお不法占拠する文芸部室を訪れていた。
 部屋に入ると心の天使朝比奈さんが、朝比奈さんに似た感じのOLと共に至上の笑みを二倍にして出迎えてくれた。

「……えっと、とりあえずどちら様でしょうか?」
 この場において何よりも一番の疑問点となる、謎のOL風な女性に尋ねる。
 女性は俺の前に一歩出てくると
「始めまして、朝比奈みくるの姉です。キョンくんのお家の事を、色々と担当させて頂いております」
 そう言って朝比奈さんに負けない白い可憐な手を差し出してきた。

 朝比奈さんのお姉さん──通称『朝比奈さん(大)』は、朝倉の事について俺に説明する為訪れたという。
 わざわざこんな部室まで足を運ん頂いて、本当にご苦労さまです。
「キョンくんが朝倉さんを支配下に置いてしまう事は、わたし達にとっては既定事項でした。
 その結果、朝倉さんが家を追い出される事もです。何せわたし達は未来のキョンくんから聞いていましたから。
 そこで未来のキョンくんの指示通り、わたし達は朝倉さんをキョンくんの家で預かる事にしたんです」
 今この瞬間、俺の殴りたい人物リストに『未来のキョン』という二人目の名前が記されたのは言うまでもない。
 やはりあの時躊躇わずに殴っておくべきだった。
 ちなみに一人目はもちろん『ハルヒの父親』である。

「……キョンくん、未来のあなたが告げていった言葉を覚えていますか」
 朝比奈さん(大)はふと真剣な眼差しを浮かべて聞いてきた。
 えっと、その時が来たら躊躇うな、お前の全力で対応しろ……でしたっけ。
「はい。わたし達の派閥は……いえ、古泉くんの『機関』や長門さんもです、わたし達人間にはサポートしかできません。
 どんなに権力とかがあろうとも、最終的にはキョンくん、あなたに全て頼らなくてはならないんです。
 こんな事言えた義理ではないのですが……頑張ってください。この世界の全ては、キョンくんにかかっています」

 どうやら俺は、いつの間にやら勇者にジョブチェンジしてしまっていたらしい。
 個人的には勇者の傍で「ああっ、アレは!」「知ってるのかキョン!」といった解説キャラあたりが望ましかったのだが。
 しかし、だ。

「キョンくん……わたし、キョンくんを信じてますから」
 朝比奈さんズにそう言われてやる気ゲージが溜まらない男子がいるとすれば、そんなのは全く以って以下略だろう。
 もちろん俺は以下略でも以下略でも、ましてや古泉でもないので、心のやる気ゲージはマックス値まで溜まっていった。
「任せてください」

 後にして思えば軽率な答えだったと思う。
 もしこの時何を任されたのかを知っていたならば、俺はもう少し躊躇っていた事だろう。

 それでも朝比奈さんの願いを断る事なんてしなかっただろうがな。


- * -
 教室に戻るとハルヒがブルマ姿で憮然としていた。
 朝から更に増して不機嫌オーラ全開だな。いったい何処の惑星の正装なんだ、それは。
「小惑星134340番」
 冥王星かよ。そんな時事ネタで答えるな。
「……ねぇ、みくるちゃんの次の衣装、何がいいかしら」
 何を着せても似合うと思うが、あんまり泣かすなよ。
 それだけ告げると俺は席に着き、さっきまでのハルヒのように頬杖をついて外を眺めた。
 朝比奈さん(大)に言われた事を考える。未来にいったい何が起こるというのだろうか。

「何よ、そっけないわね」
 俺のあまりの態度にハルヒが興味をしめしてくる。まあな、最近色々あって疲れてるんだ。
「色々って? あんたまさかあたしに内緒で面白い事してんじゃないでしょうね」
 俺は窓の外を眺めっぱなしなんでハルヒの顔はわからない。
 が、言葉のニュアンスでなんとなく目を輝かせ始めている事だろうという事はわかった。

 はっはっはっ、面白い事ならたくさんしているぞ。
 お前は知らんかもしれんが、実は俺は今週に入って二回も世界を救っているんだ。
 という訳で少し休ませてくれないか。伝説の勇者だって疲れたら宿屋に泊まって体力回復するもんだろ。
「…………何それ、ゲームか何かの話? はあ、期待させないでよバカ」
 百%混じりけ無しに失望の気持ちを上乗せし、ハルヒはつまらなさそうに告げてきた。
「本当、退屈」
 最後にぽつりと、そんなぼやきと共に。


 その日のハルヒはとにかく荒れに荒れていた。
 放課後、部室に来るなり着替えるからと俺を追い出し、ブルマ姿からバニーガールへジョブチェンジ。
 そのまま朝比奈さんの髪を淡々といじくっている。長門は何事もないように本を読み、古泉は朝倉とのオセロ勝負で黒星を地道に増やし、俺はそんないつもの光景を机に突っ伏しながら眺めていた。

 その日のハルヒはとにかく荒れに荒れていた。
 それさえ目をつぶれば、この世はある意味、平和だった。


- * -
 家に帰り、夕飯を食い、風呂に入り、妹と朝倉を部屋から追い出し、ようやく就寝する。
 どうでもいいがあの二人は何で俺の部屋にたむろうんだ。二人で遊ぶならどっちかの部屋に行けよ。
 そう思いながら深い眠りにつき、次に意識が戻ったのは

「キョン……起きてキョン…………起きろってんでしょうがっ!」
 そんなハルヒの罵声がけたたましく耳に響き渡る状態だった。


 どうやら俺とハルヒは制服姿で学校の校庭に倒れていたらしい。
 空を見上げれば灰色の空、空気の違う感覚が肌にあたる。
 そして決定的なのは、校舎を中心に学校を不可視の壁が囲っているという事実。
 ────閉鎖空間。
 まさしくこれはあの時味わった閉鎖空間と同じ状態だった。

「ハルヒ、ここには俺たちだけか。朝倉の姿は見なかったか」
「見てないわ。……何で涼子がいると思うわけ?」
 何となくだ、深い意味は無い。俺はそれだけ答えた。
 これが本当に閉鎖空間なら朝倉が来ていてもおかしくないのだが、あいつはここへは来ていないのだろうか。

「ハルヒ、職員室だ。外に連絡できるか確かめる」
「……冷静ね、あんた」
「世界を二度ほど救ってるって言っただろ?」
「バカ」
 そう言いながらもハルヒが俺の手を握ってくる。ハルヒでも不安という感情はちゃんと心に持っているらしい。
 悪くない、俺はただそう思った。

 職員室で電話を確かめ、学校中を走り回り、屋上から街を見渡す。
 そこには人ひとり、明かり一つない、暗い灰色の街並みが眼下に広がるだけだった。
 朝倉の姿も見えない。これは本格的に二人だけで閉じ込められてしまったようだ。

 行くあても無いので部室に戻り一息つくと、ハルヒは他も見てくると飛び出していってしまった。
 果たしてこの状況、どうしたものか。
 窓の外に広がる灰色の空間を見つめながら考えていると、ふとそんな中で何かきらっと光るモノが見えた。
「……何だ?」
 俺がそう思っている間に、その光る物はもの凄い勢いで近づいてくる。
 とっさにヤバイと判断し射線軸から離れると、その光る物体は窓をぶち破って部室内へと突撃してきた。
 そのまま物体は長机と衝突、あわれ長机は激しい音と共に真っ二つに粉砕されてしまう。
 物体は更に床に衝突し、その身を半分ほど埋め込む事でようやく動きを止めた。

「な、な……何だあっ!?」
 瓦礫と化した机をどかし床を見ると、どこかで見たようなアーミーナイフが一本、床に突き刺さっていた。
 つまり窓を破り、机を粉砕し、床に埋まるぐらいの勢いでナイフが飛んできたと言う事だ。
 こんな超人魔球を投げるナイフ使いなど、俺の知る限りでは一人しかいない。
「……朝倉から、なのか?」
 渾身の力を込めてナイフを引き抜いてみてみると、刃の部分に「パソコンON」と掘り込まれている。
 指示通りにパソコンの電源を入れてみると、いつものOS起動画面に移行せず、真っ暗の画面に文章が打ち出されてきた。


YUKI.N>見えてる?
 長門か?

YUKI.N>
 ……ディスプレイの向こうで頷かれてもわからないぞ。

YUKI.N>( ゚ω゚)( -ω-)( ゚ω゚)( -ω-)
 いや、だからって無理に表現しなくていいから!
 俺は緊張の糸がぷっつり切れた状態で、頭を抱えながら次の言葉を待った。

YUKI.N>現在、朝倉涼子の力を借りて通信している。キーボードコネクタを挿入するのに大変だった。
 ……時間が惜しいので、今は全ての突っ込みを流す事にする。

YUKI.N>( ´・ω・`)ショボーン
 突っ込まれたいのかよ!? あぁもう頼むからとにかく話を進めてくれ。

YUKI.N>現在、こちらの世界にあなたと涼宮ハルヒは存在しない。
YUKI.N>傍にいる古泉一樹の伝言を伝える。
●>恐れていた事が起こりました。前に話した世界の入れ替わりです。
●>涼宮さんはその世界こそ、真の世界としようとしているのです。
●>……僕としてはもっと涼宮さんや、あなたと、そうあなたと深く深く関わりたかったのですが。
 やめろ、気持ち悪い。

YUKI.N>わたし個人もあなたにもう一度会いたいと思っている。朝倉涼子も朝比奈みくるも心配している。
MIKURU.A>きいぼおどで もじおうつのは むずかしいです
RYOKO.A>ちょ、キ、キーボードに、あまり、刺激をあた、た、たあああっ!
YUKI.N>この通り、みんな心配している。
 ……いったいそっちが今どんな混沌状態なのか、その方が心配になってきた。

YUKI.N>その世界に入れるのは涼宮ハルヒとあなただけ。朝倉涼子の力でもナイフ一本が限界だった。
 つまり、俺が何とかするしかないって訳か。

YUKI.N>わたしはあなたから教わった事をまだ実践してない。それにもっと教えて欲しい。
YUKI.N>あなたの行為、特に性生活に関して観察するのは、わたしにとっての使命。
YUKI.N>また、わたしの家に
 何だかやる気ゲージがぐんぐん削られている気がする。
 微妙に元の世界へ帰りたくなくなってきているのは俺のせいじゃないよな。


YUKI.N>seven deadly sin.

 そこで文字の表示が止まる。数秒後画面が切り替わり、OSの起動画面が現れた。
 タイムオーバーのようだ。同時に部屋の中が青白く染まりだした。
 ……違う、窓の外から青白い光が差し込んでいるんだ。つまりこれは────っ!

「キョン! 何かでたっ!」
「逃げるぞハルヒっ!」
 扉を開けて叫んできたハルヒを捕まえ、俺はわき目もふらずに廊下を疾走した。
 直後に部室が爆音と共に青白い光に吹き飛ばされる。やばい、校舎の中じゃ逃げるに逃げられない。
 ハルヒの手を握ったまま、一階まで階段を駆け下りる。ハルヒが何か言いたげだが今は無視した。
 目の前の窓を開けるとそのまま飛び越え、ハルヒを連れたまま中庭から校庭へと一気に駆け抜ける。
 そして校庭の中央辺りまで逃げてきてから、ようやく俺は足を止めて後ろを向いた。

 先ほどまで俺たちがいた旧校舎部室棟は、青白い巨人──《神人》によってほぼ半壊状態となっていた。


「キョン……あれ、何? 何だか悪いやつじゃないって感じがする……」
「悪いヤツだ」
「え?」
 俺が明確に言い切ったからだろう。ハルヒは少し驚いた表情で見つめてきた。
 そういっている間に《神人》が更に二体、姿を現し始める。
「あれは俺たちの世界を壊し、新たな世界を産み出そうとするモノ……言うなれば『七つの大罪』だ」
「……キョン。あんた、何、言ってるの?」
 ハルヒは本当に何言ってんだこいつというような目を向ける。後一歩で哀れみになりそうな、そんな目だ。

「何って、これは『お前の夢』だろうが。今の世界に満足しないお前が、あの七つの大罪をうみ出した」
 これは夢と言う事にする。ハルヒは意外に現実主義者だと古泉は言っていた。
 だったらこんなランチキ騒動、どう考えたって夢だと信じてくれるだろう。
「あたしが……あの巨人を?」
「そうだ、『七つ』の大罪を現す巨人だ」
 ちなみにさっきから七つ、七つとしつこく言ってるのは、《神人》が『七体』しかいないとハルヒに思いこませるためだ。
 あんなのが無尽蔵に生み出されたら命がいくつあっても足りやしないし、例え数量限定でも水滸伝一〇八星とかと繋がったりした場合には、俺は世界を捨ててでも迷わず逃げるを選択するだろう。

 長門が最後に告げた言葉、『seven deadly sin』。アレがなければ俺はハルヒに『十戒』と言うつもりだった。
 今より三体も多い。ふざけたやり取りだったが、最後のはまじめに感謝する。
 ただいくら三体減ったといえど、朝倉のサポート無しで七体相手に勝てるとは、正直俺も思ってない。
 さてこの絶対的戦力差、どうしたもんかね。

「キョン…………あたし、あれが敵には思えない」
 そりゃそうだ。あれはお前が世界の改変を望んでいる為に現れた破壊神なのだから。
 だがな、ハルヒ。お前にとってたとえあれが救世主であっても、俺にとっては世界を滅ぼす敵でしかないんだ。
「世界を滅ぼす……ううん、きっとみんな帰ってくるわよ」
 違うんだ。それはあいつが生み出す『別の』みんななんだ。そいつらは俺たちの知るみんなじゃない。

「あの巨人七体を全て倒せば元の世界、俺が負ければあいつらの作る新世界だ」
 アレをすべて倒す事でお前は目が覚め、世界は元の姿に戻る。これはそういう仕組みなんだ。
 そういう事にしろ。納得しろ。でないといつまでたっても元の世界に返れないだろ。

 無意味に準備運動を始める俺に対し、ハルヒがどんどん可愛そうな人を見ているような顔になる。
「……キョン。あんたの言う事が本当だとして、いったいどうやってアレを倒すつもりなのよ。
 あんなの、どう考えたって軍隊レベルの出番じゃない」
 ああそうだな。お前の言う通り、確かに軍隊の出動要請がいる。だがそれで呼ばれる軍隊は自衛隊や国連軍じゃダメだ。
 《神人》と戦える力を持つメンバーで構成された軍隊でないとならない。


 この空間に入れるのは俺とハルヒだけ。
 《神人》と戦えるのは俺と朝倉が使える紅い力だけ。
 つまりその二つの条件を満たす連中に出動してもらうしかない、と言う事だ。

 覚悟は決めた。躊躇いはしない。
 やれやれと毒づきながらも元の世界に戻る為、俺の考えつく限りの全力で相手しよう。


「……だからここに誓おう! いつか必ず、俺がこの時代の俺を救いに来る事をっ!」


 その宣言と共に、閉鎖空間に数多くの紅い光が現れた。光は七体の《神人》目掛けて走り、それぞれ攻撃を開始する。
 俺の素っ頓狂な言葉を心底可愛そうな瞳で見ていたハルヒは、突然の紅い光の登場に驚き、やがて目を輝かせて興奮しだした。

「な、ちょ、キョン、何か紅い虫がいっぱい出た! 凄い凄い、紅い虫たちが巨人と戦ってる!」
 ……頼むから虫って言うな。
 ああ見えてもあれは全部『俺』だ。但し未来からやってきてくれた、な。
 そう言いながら、俺もまた紅く光り始める。

「うわ、何!? キョンまで紅く光って! どういうこと!? アンタ実は虫だったの!?」
「どうやらお前の夢では、俺は宇宙人で未来人で超能力者なヒーローらしい。全く夢だからって無茶しすぎだぜ」
「え、え、えええええ──────────っ!?」
 もうハルヒは興奮しっぱなしである。その証拠に鼻の穴を大きくして息を噴出し、両手をぶんぶん無意味に振っている。

「でもまあ、せっかくの夢だ。やるならとことん楽しもうぜ。
 お前もヒロインらしく、その辺で何か適当に祈ったりして大逆転の奇跡の力でも起こしてろ」
 俺はそれだけ告げると、一度ハルヒの上空をくるりと回ってから《神人》アタックを開始した。


 果たして、こんなちゃちなヒロイックサーガな理由で騙されてくれるかね。そう思いながら。


- * -
 その後の展開は、あまりにあまりな内容なので簡潔に語ろうと思う。
 あの後六体まで倒したところで、《神人》たちが突然合体しだし《超巨神人》となった。
 それに対し、ハルヒはハルヒで『メチャクチャ楽しい』と思う力を具現化した、白く輝く大剣を俺に託す。
 《神人》が『ストレス』の象徴なら、この剣は『爽快』な気分の象徴だ。
 結果、俺がその大剣で《超巨神人》を一刀両断にぶった切り一件落着。
 閉鎖空間にひびが入り、ドームが砕け、その輝きと共に世界はうっすら白く染まっていった。

 そんな白く染まり行く世界の中で、何故か力を使い果たした俺は、ハルヒに優しく抱きかかえられていた。
 それからの事は全く覚えていない。
 気づけば俺はベッドから落ちた格好で目が覚めた。



 ……本当だぞ。


- * -
 翌日。
 精魂ずたずたのぼろぼろ状態で一睡もできず登校した俺は、席に着くなり思いっきり机に突っ伏した。
 ちなみに一緒に登校してきた朝倉も何だか疲れきっているようで、俺と全く同じように机に突っ伏している。
 昨日こいつに何があったのかそれはそれで気になるところだが、そこに触れたら色々と最後のような気がする。
 また今度お互いが回復したときにでも聞いてやろうと考え、今は触れずにそっとしておく事にした。

「おっはよう、キョン! メチャクチャすがすがしい朝よね! どう、元気?」
 そりゃすがすがしいだろうよ。お前はただ適当に祈って剣を出しただけだもんな。
 俺はハルヒに振り向きもせず突っ伏したまま答えてやった。
「全くこれっぽっちも元気じゃねぇ。昨日最悪な悪夢を見たからな」
 その後も全く眠れやしねえし、今日ほど学校を休もうと思った日は無い。
「ふぅん」
 ハルヒはカバンを机に置くと、俺の傍へと歩いてくる。すぐ横で気配がするが、それでも俺は動かない。
 ぶっちゃけ言うと全身筋肉痛で指一本動かすのも辛いのが現状だ。

「キョン」
「何だ」
 ハルヒはぐったりと突っ伏す俺の肩をそっと撫でると、俺が聞き取れるギリギリの小さな声で言ってきた。
「おつかれさま」

- * -
 その後のことを少しだけ語ろう。


 古泉は俺に会うと軽く会釈をしてきた。
「あなたには感謝すべきなのでしょうね。涼宮さんは全て夢だと信じたようです」
 さて、どうだろうな。夢だったと信じている、と思わせてるだけかもしれないぜ。
「それでもです。あなたにまた会えて、僕は本当に嬉しく思っています」
 古泉はとても爽やかに告げてきた。

「ところで。そろそろあなたにはしてもらわなければならない事があるのですが」
 何だ、いきなり。
「涼宮さんが生み出した閉鎖空間の処理をお願いしたいのです」
 どういうことだ。あんなに晴れ晴れとしていたのに、またどこかで発生したのか?
「いいえ。──処理してもらうのは、過去に生み出された閉鎖空間です」

 それは俺がずっと気になっていた部分だった。
 古泉の言う三年前のXデー以降、閉鎖空間の発生があの一回だけだったって事は無いはずだ。
 だが《神人》を倒せるのは俺の紅い力のみ。では俺が処理したあの一回以外の閉鎖空間はどうしていたのか。

「……つまり俺に過去に行って、今この時間までに発生してきた全ての《神人》を倒してこいと、そう言うのか」
「はい。何しろあなたにしか倒せませんから」
 しれっとした顔で告げてくる。くそっ、そんな大変な事を今まで黙ってたのはどうしてだ。
「もちろん、改変に賛成されないようにする為です。先に知ってたらモチベーションが下がっていたでしょう?
 朝倉さんは過去へ同伴できるみたいです。どうかこの世界を救ってください、我らが勇者様」
 俺は殴りたいリストその三に『古泉一樹』の名を迷わず書き記した。



 昼休み。長門は相変わらず文芸部部室で人が殺せそうな分厚い本を読んでいた。
「なあ、俺や朝倉みたいなインターフェースは他にもいるのか?」
「あなたは特別。でも朝倉涼子レベルならけっこう」
 本から目を離さず、長門は淡々と答えてくる。
「そいつらに、またお前が狙われたりする可能性はあるのか?」
「だいじょうぶ」
 そこで長門はこちらを見つめてくると
「わたしは負けない」
 昨日の朝倉の事は聞かないことにした。



「ふぇ、キョ、キョンくん……わたし、もう会え、ないかと……ふぅええええっ!」
 朝比奈さんに啼きながら抱きつかれ、俺は改めて戻ってこれたんだなと自覚した。
 その後朝比奈さんはご機嫌なハルヒにつかまり様々なコスプレ衣装を着せられる事になる。
 家に帰ると家族と朝比奈さん(大)がクラッカーを鳴らし、豪勢なパーティ料理で出迎えてくれた。
 朝比奈さんも呼ばれ、家の中は久しぶりに朝比奈三姉妹並んでの大はしゃぎ状態となっていた。

「……コネクターはイヤ……コネクターはイヤ……あぁごめんなさい長門さんそれだけは……」
 ……こっちは後で色々と慰めてやる事にしよう。



 さて、栄えあるSOS団第二回目の集会だが、何故か四人が揃いも揃ってキャンセルしてきた。
 いったい何の企みだと考えながらも、俺は仕方なくハルヒの事を一時間前から集合場所で待っていた。
 さて今日は何を話してやろうかね。どうせ今日はハルヒのおごりだ。
 朝比奈さんの次の衣装や、団の方針など話す事は色々ある。
 だが俺は今回の件で一つだけ決めた事があった。

 俺が宇宙人で未来人で超能力者である事。
 それだけは、金輪際二度とハルヒに言わない事を決めたのだった。


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コメント

なんだか夢のような展開ですね(笑)
こんなハルヒがあってもいいなと思いました。
続編期待してます!
これからもがんばってください!

  • 2007/02/10(土) 23:25:30 |
  • URL |
  • へっぽこ #-
  • [ 編集 ]

>へっぽこさん
設定は完全に変わってますがキョン以下SOS団の面々は性格一緒ですからね(笑)
続きは考えてませんが、もし書くとしたなら退屈か孤島かエンドレスあたりでしょうね。

  • 2007/02/15(木) 06:22:30 |
  • URL |
  • 犬○屋 #-
  • [ 編集 ]

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